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CIRCLE for PH

鹿児島大学病院における
肺高血圧症診療と連携の取り組み

鹿児島大学病院
心臓血管内科講師
窪田 佳代子 先生

  • 窪田 佳代子 先生
  • 鹿児島大学病院

鹿児島大学病院(鹿児島市:666床)は,県内唯一の特定機能病院であり,地域医療はもとより難治性疾患診療の拠点として,多くの患者の救命,QOL向上に貢献している。2012年からは肺高血圧症(PH)専門外来を設置し,年間100例の新規紹介患者の診療に対応している。「鹿児島はいわばPH診療後進地域。ほぼゼロからのスタートでした」という窪田佳代子先生に,地域連携体制の構築の経緯や,PH診療の課題についてうかがった。

治療を求めて

鹿児島県は,県本土に2つの半島,さらに種子島,屋久島,奄美大島など多くの点在する離島を抱え,九州で最も広大な面積を有する県です。そのなかで,鹿児島市内に所在する鹿児島大学病院は,同市を含む3市2村を二次医療圏とし,県内唯一の特定機能病院として地域医療の充実に努めています。

当院の診療科の多くは二次医療圏内で完結していますが,肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)診療に関しては県内全域,さらには県境を接する他県地域からも患者さんが来られます。

特にPHは,長らく専門診療を行う施設がなかったことも相まって,クリニックから地域中核病院まで,あらゆる施設から確定診断あるいは治療目的で患者さんの紹介を受けています。2018年度の新規紹介患者数は年間約100名に上りました。

ただ,この外来を立ち上げるまで,当科としてのPH の臨床経験は非常に乏しいものでした。数年に一度患者さんが来られる程度で,そのつど,県外の経験豊富な施設に相談をして乗り越えてきた経緯があります。

救えなかった命に無念

私がPH診療に取り組むようになったきっかけを振り返ると,2人の女性患者さんとの出会いがあります。

1人目の出会いは,私が大学院で心エコーによる学位を取得後,2007年頃のことでした。重症特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary arterial hypertension:IPAH)の20 代女性で,私が主治医となり,エポプロステノール持続静注を導入するため岡山医療センターに移送したところ,わずか2ヵ月ほどで見違えるほど元気になって戻って来られたのです。

2人目は翌2008年,膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症(connective tissue disease-PAH:CTD-PAH)の20 代女性で,同様に岡山医療センターに紹介したのですが,症状が進行していたことや家族背景からご紹介に時間を要し,治療の甲斐なく亡くなってしまわれました。

移送の問題もありました。当時,まだ九州新幹線が全線開通しておらず,転院当日は私を含む医師3名とご家族で岡山まで乗り継いで行くしかありませんでした。岡山医療センターの先生方は駅まで救急車で迎えに来てくださったのですが,移送のストレスは少なからず病状に影響を及ぼしたと思います。

同じ20代女性の患者さんで,1例は元気に回復し,もう1例は亡くなるという,何とも悔やまれる結果となってしまいました。「患者さんが岡山に住んでいたら,救えた命だったかもしれない」という思いにこれからどうすればよいのだろうと考え続けました。

そして,PHの患者さんが来られれば,重症であっても鹿児島県内で対応できる体制をめざして本格的にPH 診療に取り組むことにしたのです。

動き出す 肺高血圧症専門外来

患者さんが亡くなられ,「やらなくては」という思いが芽生えました。当科として診療経験が乏しいなか,とにかく情報があるところに出向き,周囲からアドバイスを得て,足りない経験を埋めていきました。

現在,PH専門外来は週に2回(月・水),私が診察を行い,病棟では肺循環グループの医師2名の協力のもと,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)へのバルーン肺動脈形成術(BPA)なども含めた専門治療を行っています。

PHのスペシャルチームはありませんが,それでも十分に機能しています。専門外来立ち上げ時には岡山医療センターを見学に訪れ,高度にシステム化されたチーム体制にびっくりしましたが,当院はエポプロステノール持続静注の適応となる重症例が入院すれば,そのつど病棟の受け持ち看護師が対応するかたちで8年,乗り越えてきました。

センター見学後,同行した看護師が勉強会を開催し,自主的に病棟全体のスキルアップをめざしてくれたのは嬉しかったです。ただ,当初のコアメンバーは,異動や産休で現在は誰も残っていません。

一緒に頑張ってくれた看護師が異動になるとくじけそうになることもありますが,新たに配属された看護師が残された資料を活用し,内容を更新し,エポプロステノール持続静注の患者さんが入院すればまた勉強会を開くなど,病棟全体の経験値は確実に上がっていると思います。

私がやりたかったのは,当科にPH診療を根づかせること。そこに,特定の人やシステムへの依存は不要だと思います。洗練されたやり方ではないかもしれませんが,知識は確実につながれています。

いるはずの患者診療につなげたい

PHを診る体制が整い始めると,今度は,鹿児島県内に埋もれている患者さんのことを考えるようになりました。当院を受診されるのはごく稀ですが,岡山医療センターの状況などからすると,鹿児島県内にも患者さんはおられるはずです。早い段階で見つけ出し,治療につなげるにはどうすればよいのか。潜在する患者さんの掘り起こしのため,病診連携の強化にも乗り出すことにしました。

いるはずの患者診療につなげたい

大きなきっかけが,2013年から開始した「病診連携の会」です。この会は,教授はじめ心臓血管内科の医師が3人1組で県全域の地区医師会を訪問し,当科に6つある診療グループの取り組みを紹介するというものです。

診療が終わると各地域に出向き,当科の診療内容の特色を説明し,会終了後には名刺を配って回りました。「顔がみえると距離が縮まる」と教授からいわれていましたが,確かに効果がありました。

翌年からは,鹿児島市内の県医師会でカンファレンス形式の講演会を開催,年1回の定例イベントとしています。講演会では,6つの診療グループが30分ずつ,最新の話題や,紹介患者さんの症例報告などを行っています。そのなかで私は,地域の先生方に向け,「PHの患者さんは希少疾患ですが地域にきっとおられるはず。常に念頭に置いて診療をしないと,目の前の息切れをする患者さんを見逃してしまう」ことをお伝えしています。

紹介患者 ほぼゼロから100名に

連携強化を始めたことで手ごたえはありました。現在,PH専門外来で診療中の患者さんは約180名,2018年度の新規初診患者さんは97名で,年に約20名ずつ治療対象となる症例が増えています。連携への取り組みが功を奏したほか,PHの治療薬が増え,学会などで取り上げられる機会が増えたことで,少しずつ認知度が高まっていると感じます。

めったに出会わないPHの患者さんを,何とかして助けたいと始めた外来でした。それがこんなにもおられたのかと,私が一番驚いているかもしれません。紹介元は,6割が鹿児島市内,4割が市外からで,紹介ルートもさまざまです。クリニックから直接相談をいただくこともあれば,地域中核病院を経由し,診断後の治療導入を依頼されることもあります。スピードを重視し,紹介元の状況に応じて柔軟に対応しています。

たとえば,心エコーを実施する機会がないクリニックでもPHが疑われる他の所見があれば,その時点で当院にご紹介いただくことをお願いしています。ただ遠方の患者さんは,当院まで出向くのを躊躇されることもあるため,いったん心エコーが実施できる近隣施設を経由していただくのがよいかと思います。

「心臓カテーテル検査までしてから」「鑑別診断を済ませてから」などと紹介基準を設けてしまうと,紹介がずるずると遅れていきます。複数施設を経由するにしても,当院までの時間をなるべく短縮したいと考えています。

こうしたことを地域で訴え続けていくなかで,循環器科を専門としないクリニックからの直接紹介も少しずつ増えています。「どこか気になる」というレベルで紹介をいただく機会が増え,本当にありがたいことだと思います。患者さん自身も,症状のない段階で発見してもらえたと,紹介元の医師に厚い信頼を寄せるようになります。1例でもそうした症例を経験することで,地域の先生方のPHへの関心がより高まればと考えています。

逆紹介 患者は地域で診る

地域での連携体制構築が進み,一度紹介のあった施設からは,2例目,3例目と患者さんを送っていただけるようになりました。早期に治療介入し,重症例であっても生命予後の改善が得られる患者さんも増えてきました。

そうしたなか,現在進めているのが,一定の治療が終了した患者さんの逆紹介です。

症例を選びながらも,治療により病状の安定を得たと判断される患者さんについては,紹介元に返すよう努めています。BPAを施行した患者さんであれば,治療終了後,紹介元にお返しし,3ヵ月に1回当院で診る併診としています。1年後のカテーテル検査で問題がなければ,完全に紹介元に返し,その後は,主に指定難病に係る医療給付の更新申請のための検査に対応する目的で,年1回のフォローアップを行っています。

地域の先生も,紹介した患者さんが治療を終え,元気になった姿をみて,より詳しくPHを知ろうと思ってくださるようです。紹介患者さんをきちんと地域に返すことで,地域にPH診療の好循環が生まれると期待しています。

進化する治療 新たな課題

鹿児島県内においては,多くの患者さんをPH の専門治療につなげられるようになったなかで,新たに課題もみえはじめています。

まずは,連携の地域格差です。一度紹介をいただいた施設からは,患者さんが続く傾向にあります。ただし,いまだ紹介がほとんどない地域があるのも事実です。おられるはずの患者さんのためにも,連携の空白地域を埋めていく必要があります。

進化する治療 新たな課題

さらに,PHの終末期ケアの問題もあります。PHの治療手段が少なかった時代に比べ,予後は飛躍的に改善しました。それでも,紹介をいただいた時点ですでに終末像を呈していたり,薬物治療に有効性の乏しい症例もおられます。そうした患者さんの終末期をどう診ていくかも,毎回課題となっています。

特に鹿児島県では,訪問看護ステーション数が減少,高齢者人口10万人あたりの設置数は全国平均を下回っています。地域に戻った後の在宅療養環境を整えようにも,訪問看護を行う看護師の絶対数が少なく,きめ細かなケアが提供できないこともあります。県境を越えての患者ともなると,県単位でサービス内容の条件が違うなどして,ケアマネジャーが調整に奔走している現状です。

さらに独居の高齢患者さんで,退院後に施設入居となる場合,PHの病態によっては施設側が受け入れに消極的になる場合もあります。患者さん,家族などのキーパーソン,退院支援の看護師,医療ソーシャルワーカーなどが集まり,最期まで可能な限りQOLを維持するための話し合いを重ねていきますが,必ずしも最善の方法に辿り着けるわけではありません。

当院を退院後,地域のなかで患者さんがQOLを維持し,よい時間を過ごすにはどうすればよいのか,限られた社会資源のなかでできる限りの方法を考えていく必要があります。

10年,20年後の人生を見据えて

PHのQOL維持をめざすうえで欠かせないのが,患者さんの疾患に対する理解です。PHの治療薬が次々と登場し,救える命は増えました。ただ,最新の医療をもってしても改善が見込めない病態があるなか,患者さんのPHという疾患に対する理解,知ろうとする意欲は欠かせないと思うのです。

そこで,診療では疾患について時間をかけてお話ししています。患者さんのなかには,地域でPHを疑われ,当科受診までにインターネットで情報を検索する方も少なくありません。古い情報や,重篤な病態に限定された情報を鵜呑みにされている方もおられます。また,比較的高齢の患者さんには説明にも時間を要しがちです。

なかには,「理解をするのが難しい」「詳しく知るのが辛い」と背を向け,「家族に任せます」という方もおられます。しかし私は,患者さん本人を抜きにして,家族の合意をもとに治療を進めることには疑問を覚えます。自身の疾患について十分に理解し,しっかりと治療に向き合わないことには,そこから先の辛い出来事を乗り越えられないと思うからです。内服やカテーテル治療にも一定の副作用,合併症が生じえます。そうした治療の辛さに直面したとき,患者さんの疾患に対する理解が十分でないゆえに,治療脱落という事態に陥ることだけは避けなくてはなりません。

救われた命です。患者さんには,10年後,さらに20年後を見据えて,疾患と向き合っていただきたいと願います。われわれも,多くの患者さんを適切な診療により将来へつなげていけるよう,地域の先生方とさらに努力を重ねていきたいと思います。

<Case example>
近医受診から紹介までに1年を経た重症慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の1例

■tips
  • 診断にはスピードが重要。地域の開業医から,大学病院への直接紹介もOK
  • 受診中断を防ぐため,遠方患者ならいったん近隣の専門医への紹介も検討
  • 大学病院主催の勉強会,講演会はぜひ活用を。紹介すべき患者像がわかる

症例の背景

症例 50歳代,女性(CTEPH)
主訴 労作時呼吸苦
現病歴 X-10年より高血圧症により近医にて受療歴あり。X-1年10月頃より労作時息切れを自覚。近医に相談したところ,呼吸器内科を紹介され,気管支喘息の診断で吸入薬を開始した。吸入薬を継続するも改善せず,その後も徐々に息切れは悪化,本人が症状を自覚してから1年が経過した。X年11月頃には会話だけでも息切れをするようになり,職場の同僚の薦めで他院を受診。他院総合内科で心電図,胸部X 線の異常を指摘され,同院の循環器内科へ紹介。心エコーによりPH を指摘され[右室収縮期圧(RVsp)88mmHg],PH 疑いとして当科紹介となった。当科にて右心カテーテル検査を施行,重症のCTEPH との診断により,複数回のBPA を行った(図1)。

症例の背景

【図1】来院時検査所見

症例を振り返って

本症例は,患者本人は労作時息切れの症状を自覚し,近医に伝えていたものの,医療側に「息切れ=呼吸器疾患」という先入観があったと推測されます。しかしながら,「息切れ」は往々にして解釈が難しいものです。呼吸器疾患に対する治療で改善が認められない場合は,漫然と治療を続けず,胸部X線,CTに加え,ぜひ心電図検査を検討していただきたいと思います。

本症例では,患者が他院を受診した時点(近医受診時より1年経過)で,心電図には右心負荷を示唆する顕著な所見が認められていました。このような症例では,初診時に心電図を撮る機会を逸していても,経過中のいずれかの時点で検査を行えば,ある程度の所見が得られるはずです。とにかく,鑑別にはスピードが必要です。

症例を振り返って

患者さんは,近医から胸部X線,CT所見をもとに「肺機能検査に異常はないが,息切れするなら喘息かも」といわれ,「悪い病気でなくてよかった」と「仕事も多忙だし,当面は吸入薬で様子をみよう」と安心されたと振り返っておられました。本症例は,CTEPHの好発年齢からすると比較的若年ですが,CTEPHは高齢者に限らず,働き盛りの活動性の高い年代層にも散見される点に注意が必要です。

あらためてPHを疑うポイントとして,有意な心疾患の既往がなく,胸部X 線で心拡大や肺動脈拡大,心電図で右心負荷を認めれば,心エコーでの観察が重要となります。心エコーの実施が難しい場合でも他の所見が明らかに認められれば,当院では直接,患者さんをご紹介いただいてOKと伝えてあります。ただ,遠方の患者さんでは,通院の煩わしさから受診中断される可能性もあるため,近隣の心エコーが実施できる施設に診ていただくとよいでしょう。

本症例は,重症のCTEPHであったため,当院にて複数回のBPAを施行しました。紹介元には極力,確定診断と治療の結果をフィードバックしています。

近医へのフィードバックも重要ですが,われわれがめざすのは,地域全体でPH診療の底上げです。そのためには,講演会などの地道な情報発信が力を発揮すると考え,本症例のような見逃し例も含め,地域の先生方と共有できる機会を重視しています。

本ページは、株式会社メディカルレビュー社発行『CIRCLE for PH―PH診療をつなぐ・むすぶー』Vol.1より転載(一部写真を追加)しています。