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CTEPH診療
UPDATE

大郷 剛 先生 ,杉村 宏一郎 先生, 谷口 悠 先生, 足立 史郎 先生

日時:2021年5月11日(火)
場所:オンライン開催

ご司会
大郷 剛 先生
国立循環器病研究センター心臓血管内科部門肺循環科医長・肺高血圧症先端医学研究部 部長

ご出席
杉村 宏一郎 先生
国際医療福祉大学医学部循環器内科 / 国際医療福祉大学成田病院循環器内科 教授

谷口 悠 先生
神戸大学大学院医学研究科内科学講座
循環器内科学分野 助教

足立 史郎 先生
名古屋大学医学部附属病院循環器内科 病院助教

CTEPH 診療のめざましい進歩

大郷 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は器質化血栓が肺動脈を閉塞して肺高血圧を呈する予後不良の疾患ですが、従来の肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy:PEA)に加え、近年はバルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)や、肺血管拡張薬であるリオシグアトの登場により診療のあり方は変化しつつあります。これらの状況を踏まえ、本座談会では、CTEPH 診療でご活躍の 3 名の先生方とともに「CTEPH 診療 UPDATE」をテーマとしてディスカッションしていきたいと思います。

大郷 剛 先生


大郷 剛 先生

一わが国における CTEPH 患者数の推移

大郷 CTEPH に関する特定医療費(指定難病)受給者証所持者数の推移をみると、2010 年代に入って急激に増加しています。特に 2018 年、2019 年度は患者数の伸びが大きく、2019 年度には 4,160 名となり、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)の 3,934 名を上回っている状況です(図11)。杉村先生、受給者証所持者数増加の背景についてどのような考察が可能でしょうか。

杉村 受給者証所持者数が総人数の表記であることを踏まえると、予後改善による死亡者数の減少が考えられます。また、BPA の普及とともに CTEPH の概念そのものが広まったことも大きいでしょう。私は 2000 年頃から CTEPH の診療を行っていますが、カテーテルインターベンションの手法が登場したことで循環器内科医、呼吸器内科医に CTEPH という疾患が広く認知されるようになったと感じています。

杉村 宏一郎 先生


杉村 宏一郎 先生

足立 杉村先生がおっしゃったとおり、予後の改善と疾患認知の向上が関係していると思います。BPA のレジストリ研究である国立循環器病研究センター主導の J-BPA なども、疾患認知によいインパクトを与えているのではないでしょうか。

谷口 受給者証所持者数の増加は、一般医から専門施設への紹介例の増加を反映していると思います。CTEPH は BPA やリオシグアトで治療できるようになったので、CTEPH を疑えば専門施設に送ろうという流れができてきているのでしょう。当院でも、以前は重症例が中心でしたが、最近は少し息切れするので心エコー検査を行うと三尖弁圧較差(transtricuspid pressure gradient:TRPG)が軽度上昇していた、という程度の患者さんの紹介が増えている状況です。

大郷 一般医の先生でも、軽い自覚症状がある段階で CTEPH を疑うまでに認知されるようになってきているわけですね。足立先生の施設でも軽症例の紹介は増えていますか。

足立 われわれの地域ではこれまで急性肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)後のフォローの重要性についても啓発を重ねてきましたが、それが実を結んだのか、この数年で急性 PTE 治療後の息切れなどでの紹介が増加し、そこから慢性肺血栓塞栓症(chronic thromboembolic disease:CTED)や CTEPH が発見される機会も増えています。全体的に初診時の平均肺動脈圧(mPAP)は低下しており、軽症化の傾向がみてとれます。

大郷 以前は、CTEPH は肺高血圧症専門医だけに認知されているものでしたが、治療法が確立して一般医の間でも認知が広まった結果、患者数の増加と早期発見が進みつつある状況がうかがえますね。

図1 CTEPH、PAH 患者数
特定医療費(指定難病)受給者証所持者数

CTEPH診療UPDATE

引用 1)より作図

一治療の進歩と予後改善の可能性

大郷 谷口先生は、CTEPH と診断された PEA 不適応患者さんの予後を診断時期別で比較して、2006 ~ 2012 年に診断された患者さんでは 1 年および 3 年生存率が 89.0%および 74.3%であったのに対し、2013 ~ 2016 年に診断された患者さんでは 91.6%および 85.0%であったことを報告されています(図22)

 谷口先生、生存率改善にはどのような因子が寄与しているのでしょうか。

谷口 本研究の 2013 年以降に診断された患者さんを対象とした多変量解析では、治療に関する項目のうち、BPA の実施が独立した生存率の予測因子であることが明らかとなっています(p = 0.042、Cox 比例ハザード回帰分析)2)。また、単変量解析ではありますがリオシグアトも有意な予測因子として浮上しており(p = 0.023、Cox 比例ハザード回帰分析)2)、BPA をはじめとする新たな治療法の登場が PEA 不適応患者の予後改善に関与している可能性が示唆されます。

谷口 悠 先生


谷口 悠 先生

図2 手術不適応の CTEPH 患者における診断時期別の生存率(Kaplan-Meier 曲線)

CTEPH診療UPDATE


試験概要
目的
・手術を受けていない CTEPH 患者のコホートにおける長期転帰に関連する予後予測因子を検討する。
対象および方法
・フランス肺高血圧症リファレンスセンターの3施設で 2006 年1月~ 2016 年12 月に診断、治療、フォローアップされた手術不適応の CTEPH 患者連続 343例を対象に、フランス肺高血圧ネットワークレジストリーおよび各施設の診療記録などからデータを収集した。
評価項目
・診断時期ごとに、長期生存率と予後予測因子を分析した。
解析計画
・生存時間は Kaplan-Meier 法を用いて推定し、診断時期の比較には Cox-Mantellog-rank 検定を用いた。予後予測因子の検討には Cox 比例ハザード回帰モデルを用いた。


文献2)より引用

一 CTEPH 診療の最新の知見

大郷 一方、2020 年に発表された欧州呼吸器学会(ERS)のステートメントでは、集学的治療により CTEPH の血行動態が正常化してもすべての肺血管が正常に戻らない可能性について言及しています3)。血行動態がよくなり予後がよくなってもなお解決できていない現在の治療の問題点は何でしょうか。

谷口 かに治療の進歩により血行動態はほぼ正常化できるようになって予後も改善したと思いますが、全例がNYHA 心機能分類I度になるわけではなく、現実はII度以上の患者さんが約7割です。さらに、血行動態が正常化しても在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)から離脱できない患者さんも半数程度おられます。動くと酸素飽和度が低下する患者さんというのは、肺微小循環の異常がある可能性があって、今後の課題だと思います。

大郷 自覚症状や低酸素の残存について、足立先生いかがでしょうか。

足立 谷口先生がおっしゃったとおりで、当院でも NYHA心機能分類II度までしか回復しない患者さんは多く、さらなる症状改善は課題です。同じように安静時の mPAP が25mmHg まで低下しても、劇的に症状が改善する患者さんもいれば日常動作でも息苦しさを訴える患者さんもおられます。この状況を考えると、BPA の治療ゴールとして安静時の血行動態を指標とするのが適切なのかについても再検討が必要かもしれません。

杉村 やはり、BPA 後も自覚症状が残る患者さんはおられます。そこは、微小循環に PAH に類似した病態が残存していて、BPA のみでは解決できていないと捉えてよいと思います。安静時の評価が適切でないとなれば、何らかの負荷をかけた評価が必要かもしれませんね。

CTEPH の次なる目標とリオシグアトの役割

一 BPA の前治療としてのリオシグアトの役割

大郷 ERS のステートメントではさらに、BPA までのブリッジングとしての肺高血圧症治療薬の可能性が示唆されています。たとえば、ドイツからの報告では BPA 前のリオシグアトの3ヵ月の投与により mPAP や肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance:PVR)といった血行動態、N 末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(N-terminal pro-brain natriuretic peptide:NT-proBNP)の有意な改善が示されています(いずれも p < 0.05、Wilcoxon 符号順位検定)(図34)。BPA 前の内服薬投与の必要性や目的について、足立先生はどうお考えですか。

足立 大郷先生からご紹介いただいたデータ4)に示されている、BPA 前の血行動態の改善は意義があると思います。前治療により BPA の安全性が確証されるわけではありませんが、侵襲的手技に際して少なくとも血行動態を改善しておくことは大切です。加えて、施設の事情などで BPAまでの待機期間が長い場合、少しでも悪化させないという観点でも有用だと思います。

杉村 直接証明するにはランダム化比較試験(RCT)が必要だと思いますが、BPA の合併症のリスク因子としてのmPAP、PVR があるなかで、それらの改善はリスク軽減につながると思います。余裕のある状況で手技ができるというのは大切なことではないでしょうか。

大郷 どんなに手技が優れていても、血行動態が悪いなかで実施すればリスクが上がるのは当然のことですね。血行動態を改善した状況で治療に臨むのは理にかなっているといえます。

一 BPA の後治療としてのリオシグアトの意義

大郷 一方、BPA 後のリオシグアト投与の意義も検討課題の1つになるかと思います。杉村先生、東北大学の BPA後の治療に関する研究について、解説をお願いします。

杉村 東北大学の研究では、BPA 後に安静時 mPAP が30mmHg 未満に改善した症例を対象としてリオシグアト投与群とコントロール群に無作為に割り付け、試験開始時と6ヵ月後の運動負荷カテーテル検査による mPAP/CO(cardiac output:心拍出量)スロープの変化を比較しています。その結果、コントロール群では6ヵ月後の運動負荷による mPAP/CO スロープに変化はありませんでしたが、リオシグアト群では mPAP の上昇に対して、CO の増加が大きくなり、スロープの傾きが有意に抑えられました(p < 0.01、対応のある t 検定 or Wilcoxon 順位和検定)(図45)

 6 分間歩行距離(6-minute walk distance:6MWD)は BPA によって試験開始時にすでに十分な改善がみられていることもあり、差はみられませんでしたが、血行動態的には BPA 後のリオシグアト投与に意義はあると考えられます。

大郷 ありがとうございます。実臨床では、BPA 前からリオシグアトを投与していることが多いと思いますが、BPA 治療後、たとえば mPAP が 25 mm Hg を切るような患者さんの薬物治療継続について、足立先生はどうお考えですか。

足立 BPA で血行動態が改善した後のリオシグアト投与については悩むところですが、杉村先生にお示しいただいた研究結果5)は示唆に富むデータだと思います。当院でも、運動負荷カテーテル検査をもとにリオシグアトの継続を検討しています。リオシグアトが CO を増大させる効果は末梢血管の拡張によるものと想定されますが、それは BPAでは得られない作用だと思います。

大郷 運動負荷カテーテル検査で判断する場合、数値の目安はありますか。

足立 そうですね。mPAP/CO スロープ3mmHg/L/min程度を目安に考えています。

大郷 谷口先生は BPA の後治療に関していかがでしょうか。

足立 史郎 先生


足立 史郎 先生

谷口 神戸大学では運動負荷検査は行っておらず厳密な基準も設けていませんが、NYHA 心機能分類I度まで改善した患者さんでは中止しています。NYHA 心機能分類II度以上なら、CO が十分に改善されない懸念もあるため継続しています。

図3 CTEPH 患者におけるリオシグアト投与 3ヵ月後および BPA 併用 6ヵ月後の主要パラメータの変化

CTEPH診療UPDATE


試験概要
目的
・手術不適応な CTEPH 患者におけるリオシグアト投与、および BPA 追加併用の有用性を検討する。
対象および方法
・2014 年 3 月~ 2017 年 7 月にドイツ、ケルクホフクリニックで BPA が施行された CTEPH 患者のうち、BPA の 3 ヵ月以上前にリオシグアトが開始され、BPA 後 6 ヵ月のフォローアップ検査が行われた連続 36 例を対象に、リオシグアト開始前(ベースライン)、リオシグアト投与後(BPA 実施前)、BPA 施行 6 ヵ月後の運動耐容能や血行動態を評価した。
評価項目
・WHO 機能分類、6 分間歩行距離(6MWD)、ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体 N 端フラグメント(NT-proBNP)、右房圧(RAP)、平均肺動脈圧(mPAP)、肺動脈楔入圧(PAWP)、心拍出量(CO)、心係数(CI)、肺血管抵抗(PVR)、肺動脈コンプライアンス(PAC)など。
解析計画
・連続変数の比較には Wilcoxon 符号順位検定を用いた。


文献4)より引用

一リオシグアト vs BPA をどう捉えるか

大郷 次に、PEA 不適応例におけるリオシグアトと BPA の有効性と安全性を検討したメタ解析の結果6)についてご紹介します。本解析では BPA はリオシグアトと比較して運動耐容能(6MWD、NYHA 心機能分類)や血行動態のうちの mPAP、PVR については改善傾向がみられましたが、CO についてはリオシグアトのほうが改善傾向が示されました。この結果を足立先生はどのように解釈されますか。

足立 先ほども触れましたが、BPA に比べてリオシグアトで CO を上昇させやすい理由として、リオシグアトはBPA ではアプローチできないところ、つまり微小血管を治療できていることが大きいと思います。

杉村 加えて、リオシグアトは肺血管以外の血管にも作用するため、全身循環が改善して CO 上昇に寄与している可能性もあると思います。先ほどご紹介した試験5)では、リオシグアト群で運動負荷時の有意な CO 上昇が認められており(p < 0.01、対応のある t 検定 or Wilcoxon 順位和検定)、BPA とは異なる効果が期待できます。

谷口 先生方がおっしゃるように、リオシグアトと BPAはそれぞれ作用する場所が違います。よって、双方を競わせるというよりは組み合わせることが望ましく、前述のようにリオシグアトで血行動態を改善することにより安全なBPA の施行につながると思います。

 余談ですが、欧米人と日本人では、BPA 後の CO の反応性に差があり、日本人のほうが BPA 後の CO が上昇しにくい印象があります。これについては今後のデータの集積が待たれるところですが、日本人では欧米人に比べ、高齢女性が多く、肺塞栓症の既往が少ないことが知られており、微小血管病変の寄与が大きいのかもしれません。

大郷 ありがとうございます。CTEPH 治療における BPA とリオシグアトの役割分担、BPA の前治療および後治療としてのリオシグアトの役割について、かなり明らかになってきていますね。

図4 CTEPH 患者における運動負荷時のmPAP-COスロープの変化

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試験概要
目的
・BPA 後に十分な安静時肺血行動態の改善が得られた CTEPH 患者の運動耐容能と運動時の血行力学的変化に対するリオシグアトの影響を評価する。
対象および方法
・東北大学病院において、2015 年 11 月~ 2018 年 11 月に BPA 施行後の改善(WHO 機能分類I/II度および安静時 mPAP<30mmHg)が認められ、肺血管拡張薬を投与していない CTEPH 患者連続 21 例をコントロール群とリオシグアト群に無作為に割り付け、ベースライン時およびフォローアップ時(投与 6 ヵ月後)の安静時および運動負荷時の肺血行動態、運動耐容能などを前向きに評価した。
評価項目
・ベースライン時からフォローアップ時までの、安静時および運動負荷時の血行力学的変化(肺血行動態、mPAP-CO スロープ)、運動耐容能(6MWD)の変化など。
解析計画
・各評価項目について、連続変数は対応のある t 検定 /Wilcoxon 順位和検定を、カテゴリカル変数は Fisher の正確検定を用いて両群間を比較した。


文献5)より引用・改変

リアルワールドにおけるリオシグアトの有効性、安全性

一使用成績調査中間報告書のデータの解釈

大郷 続いて、国内のリオシグアト投与に関するリアルワールドデータとして、使用成績調査中間報告の結果7)をお示しします。

 本報告では、2014 年 4 月 20 日~ 2019 年 9 月 19 日の期間中にリオシグアトが投与された 1,074 名が対象となっています。患者背景は平均年齢 66 歳、女性が 74.2%、リオシグアト投与期間の中央値は 441 日で、1 日投与量は平均5.2mg でした。中間報告ではありますが、3 年後の推定生存率は 94.4%であり(図57)、有効性評価では mPAP、PVR、CO、BNP/NT-proBNP、6MWD がリオシグアト投与前に比べて有意に減少または増加していました(いずれも p < 0.001、対応のある t 検定)。また、NYHA 心機能分類I度またはII度に分類された患者さんはリオシグアト投与4ヵ月後には 46.0%から 71.8%に増加していました。

 リアルワールドですのでもちろん複数の併用治療が入っており、PEA が 4.6%、BPA が 38.9%と、あわせて4割強の患者で併用療法が行われていますが、全体としてリオシグアト使用例における臨床指標の改善が示されています。

杉村 日本の集学的治療が行われた CTEPH 患者さんで良好な予後を示唆する重要なデータですね。当然、そのなかにリオシグアトも大きく寄与していると思います。

谷口 やはり、PEA 不適応の CTEPH 患者さんの予後は大きく改善したと思います。2016 年に報告された欧州の International Prospective Registry では、PEA 不適応例の 3 年生存率は 70%という結果でした8)。単純に比較はできませんが、2020 年に報告された日本のリアルワールドデータ7)で約 95%というのは印象的です。

足立 リアルワールドデータは症例が多様で結果の解釈が難しい側面がありますが、本調査はリオシグアトを処方している施設において、薬物治療、BPA、PEA を含めた集学的な CTEPH 治療が行われている状況を反映していると捉えています。

大郷 リアルワールドにおける CTEPH の集学的治療のなかで、リオシグアトが大きな役割を果たしているということですね。

 次に安全性の結果をみてみますと、副作用が 19.5%で認められ、主な症状としては低血圧(5.9%)、頭痛(3.0%)、めまい(1.9%)、胃食道逆流性疾患(1.5%)、下痢(1.3%)、悪心(1.0%)が報告されています7)。発現時期をみると投与開始から 30 日以内が最も多く、その後は減少していて、長期投与で増加する傾向というのは認められていません。概ね臨床経験とも一致するデータかと思います。

一リアルワールドにおけるリオシグアトの使い方

大郷 先生方のご経験のなかで、リオシグアトに特徴的な副作用とその対処法というのはありますか。

足立 やはり、低血圧と消化器症状は比較的よくみられます。血圧については全例が低下するわけではありませんが、小柄で高齢の患者さんでは下がる傾向があると思います。

谷口 低血圧については用量依存性の印象があります。当院では、最大用量の 7.5mg まで増量できていない患者さんもいらっしゃいますが、増量すると少し血圧が低下するので、その前の用量で維持している状況です。用量調節でコントロールできないほどの低血圧症状というのはほとんどありません。

杉村 低血圧の対処としては徐々に増量していくことがポイントだとは思いますが、東北大学の後治療の研究5)でも平均1日投与量は 4.3mg で、全例最大用量は投与していません。それを研究のリミテーションとして挙げているぐらいなので、そうした研究を行っても 7.5mg までは増量できないのが現状だと思います。ただし、それでも結果が得られていますので、患者さんごとの至適用量が投与されていれば効果のある治療薬だと実感しています。

足立 当院では、できる限り 7.5mg まで増量している患者さんが多いです。ただし、前治療の位置づけでは無理に増量する必要はないかもしれません。侵襲的手技である PEA や BPA を安全に施行することが前治療の目的だとすれば、副作用を起こさないことが重要です。

 小柄な高齢女性は副作用が起きやすい印象なので、そういった患者さんは最初から 7.5mg はめざさず、いったん6mg で止めたうえで、長い漸増期間を設けて状態を観察しながら最大用量まで到達している例もあります。

大郷 確かに、BPA の前治療としてリオシグアトを投与する場合には、最大用量まで増量する前に BPA を施行することもありますね。薬物治療の増量を優先して BPA の時期が遅れるようでは本末転倒だと思います。一方、PEA や BPA をすぐに行えない患者さんでは忍容性の許す限り最大用量をめざされているのではないでしょうか。患者さんごとの至適用量でリオシグアトの効果が最大限発揮できるというのはあると思います。その場合、患者さんごとに状態を確認しながら増量のタイミングを判断することも有用ですね。
 

図5 日本の実臨床における CTEPH 患者(リオシグアト投与例)の生存率(Kaplan-Meier 曲線)

CTEPH診療UPDATE


試験概要
目的
・CTEPH 患者を対象に、日本の実臨床におけるリオシグアトの安全性および有効性を前向きに調査する(アデムパス錠使用成績調査中間報告)。
対象および方法
・リオシグアトを投与された CTEPH 患者のうち、 2014 年 4 月 20 日~ 2019 年 9 月 19 日に登録され、調査票を収集・データ固定した 1,074 症例を対象に、リオシグアトの安全性および有効性を検討した。
評価項目
・(安全性)有害事象および副作用の発現率など、(有効性)6MWD、肺血行動態、BNP/NT-proBNP、WHO 機能分類など。
解析計画
・全ての評価項目を記述的に解析した。


文献7)より引用

CTEPH 診療における今後の課題、展望

大郷 それでは最後に、本日の座談会を振り返ってCTEPH 診療の課題や展望に関してコメントをいただきたいと思います。

杉村 CTEPH 診療の課題として、まずは治療ゴールの設定を挙げたいと思います。現状として施設間でスタンスが異なるなか、BPA の手技が確立して安全性が高まったからといって際限なく施行すれば過度な治療になりかねません。治療ゴールの設定については、現在進行中の J-BPA などの結果を踏まえて慎重に検討していく必要があると思います。

 私自身の考えとしては、mPAP 25mmHg 以下を目標とした肺動脈圧の低下と、できれば運動時の自覚症状の改善をゴールとしたいです。そこに全例が到達するには薬物治療の併用も必要となるでしょう。さらに、mPAP 25mmHg以下は当面の目標として、いずれ 20mmHg を切るところもめざしたいと思います。

谷口 杉村先生が問題提起された BPA の治療ゴールについては、治療可能な血管をすべて広げることを目標と考えていますが、現実的に BPA で対象となる血管は肺血管全体でいえば限定的です。バルーンカテーテルは最小径でも 1.5mm あり、造影剤投与の問題も考慮すると現実的には4~6セッション施行して一定の肺動脈圧低下が得られれば終了としているのが現状です。

 また、先ほどの日本のリアルワールドデータではかなり予後が改善されていましたが、そうはいっても BPA の併用が全体の4割という数字は、BPA 実施可能施設へのアクセスがまだ限定的である可能性もうかがえます7)。ある施設はリオシグアトだけで終わらせてしまう一方で、ある施設ではリオシグアトと BPA が併用できるという、CTEPH 治療に格差が生じているのかもしれません。治療の標準化をめざすうえでも、わが国のレジストリ研究などでベースとなるエビデンスを創出してくことが必要だと思います。

足立 当院の BPA 治療のゴールは、完全血行再建ではなく mPAP 25mmHg を1つの区切りとしています。そこをクリアすれば生命予後はかなり改善しているので、相当の若年でない限り治療ゴールとしてもよいという考え方です。問題はそこから先です。自覚症状が残る患者さんや運動負荷で肺動脈圧が大きく上昇する患者さんに対しては、年齢やアクティビティーを十分に検討したうえで追加を検討していきます。そのうえで、PEA、BPA に対するリオシグアトの前治療、後治療をどうするかは、今後の検討課題の1つになると思います。

大郷 本日の座談会では、近年の BPA とリオシグアトの登場により生命予後や血行動態が改善するなか、運動負荷時の自覚症状残存や治療ゴールの妥当性など、さまざまな臨床課題が残されていることが確認できました。そこにリオシグアトの前治療や後治療といった新たな試みも踏まえ、BPA とリオシグアトの位置づけを示唆する貴重なご意見をいただけたのではないでしょうか。今後、わが国のレジストリ研究の成果も含め、CTEPH 診療により有用なエビデンスが構築されていくことを期待したいと思います。
 本日はどうもありがとうございました。

引 用

  1. 公益財団法人難病医学研究財団難病情報センター.特定医療費(指定難病)受給者証所持者数.
  2. Taniguchi Y, et al. Predictors of survival in patients with not-operated chronic thromboembolic pulmonary hypertension. J Heart Lung Transplant. 2019;38:833-42.
    [COI:著者に Bayer 社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれる。]
  3. Delcroix M, et al. ERS Statement on Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension. Eur Respir J. 2021;57:2002828.
  4. Wiedenroth CB, et al. Sequential treatment with riociguat and balloon pulmonary angioplasty for patients with inoperable chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Pulm Circ. 2018;8:2045894018783996.
    [COI:著者に Bayer 社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれる。]
  5. Aoki T, et al. Beneficial effects of riociguat on hemodynamic responses to exercise in CTEPH patients after balloon pulmonary angioplasty – A randomized controlled study. Int J Cardiol Heart Vasc. 2020;29:100579.
  6. Wang W, et al. Balloon pulmonary angioplasty vs riociguat in patients with inoperable chronic thromboembolic pulmonary hypertension: A systematic review and meta-analysis. Clin Cardiol. 2019;42:741-52.
  7. Tanabe N, et al. Safety and effectiveness of riociguat for chronic thromboembolic pulmonary hypertension in real-world clinical practice: interim data from post-marketing surveillance in Japan. Pulm Circ. 2020;10:2045894020938986.
    [COI:本調査はバイエル薬品が実施した。著者に本 PMS 委員会のメンバー(3 名)およびバイエル薬品の社員(3 名)を含む。]
  8. Delcroix M, et al. Long-Term Outcome of Patients With Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension: Results From an International Prospective Registry.
    Circulation. 2016;133:859-71.

 

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