製品関連

PAHの新たな病態理解と
個別化アプローチ

大郷 剛 先生,中西 直彦 先生,足立 史郎 先生


日時:2019年12月13日(金)
場所:バイエル薬品株式会社本社

ご司会
国立循環器病研究センター
⼼臓⾎管内科部⾨ 肺循環科 医⻑・ 肺⾼⾎圧症先端医学研究部 部⻑
内科部門肺循環科 医長
大郷 剛 先生

ご出席
京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学 助教
中西 直彦 先生
名古屋大学医学部付属病院循環器内科 病院助教
足立 史郎 先生

はじめに

大郷:特発性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic pulmonary arterial hypertension:IPAH)は原因不明かつ稀な難治性疾患であり,若年者に多く急速に重症化する病態として理解されてきました。こうしたPAHは長年にわたり本領域の治療の主対象でしたが,ここ15~20年の間に肺血管拡張薬は目覚ましい進歩を遂げ,高い治療効果とともに疾患認知も高まりつつあります。その結果,IPAH患者の高齢化および専門施設以外での患者の拾い上げが進み,拡張障害や呼吸機能低下など,左心や肺に併存症をもつ“atypical IPAH”と呼ぶべき病態が注目されるようになりました。ケルンコンセンサス会議2018では,心肺併存疾患を有するIPAH を“left heart phenotype”,“pulmonary phenotype”に分け,これらの表現型を有する高齢PAHではinitial upfront combination therapyを推奨せず,単剤療法から治療を開始し,患者ごとの病態に応じたsequential combination therapy が推奨されています1)

大郷 剛 先生


大郷 剛 先生

一方,2018年に開催された第6回肺高血圧症ワールドシンポジウム(6th WSPH)の議論をもとに提案されたWSPH proceeding では,PAHに対して低リスクであってもinitial upfront combination therapyが標準治療となる方針が示されました2)。ただし,実際の臨床現場においてinitial upfront combination therapyが可能なPAH症例は必ずしも多くありません。6th WSPH proceedingにおいても単剤で治療したほうがよい症例が挙げられており,大別すると①カルシウム(Ca)拮抗薬・単剤に反応するグループ,②合併症があり併用療法の有効性が示されていないグループ,③非常に軽症なPAH症例のグループがあります。

本座談会は「PAHの新たな病態理解と個別化アプローチ」と題し,地域の臨床現場でPAH症例を多数診療されている先生方をお招きし,各施設でのご経験からinitial upfront combination therapyをはじめとする積極的な治療が適さない症例への個別化アプローチについて考えていきたいと思います。

HFpEFの要素をもつSLE-PAHに対するアプローチ

大郷:はじめに,中西先生が経験されたinitial upfront combination therapyの実施に注意が必要であった症例をご提示いただきます。

中西:症例は60歳代女性,主訴は労作時息切れでWHO機能分類(WHO-FC)III度です。高血圧のため近医へ通院していましたが自己中断し,1年前より労作時の息切れ・動悸を自覚。近医で降圧薬を再開するも息切れ症状が続き,心エコー検査で肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)を疑われたため当院紹介となっています。既往は高血圧とC型肝炎(インターフェロン治療後),胸水貯留があり,Ca拮抗薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を内服されていました。

大郷 剛 先生


中西 直彦 先生

入院時現症はbody mass index(BMI)が30.7と高く,血圧113/65mmHg,経皮的酸素飽和度(SpO2)96%(室内気),軽度の下腿浮腫を認め,レイノー現象や皮疹,関節症状はみられず,6分間歩行距離(6MWD)は412m,最低SpO2は87%でした。入院時血液検査所見では,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が正常範囲内,抗核抗体が軽度陽性,抗dsDNA抗体が陽性,抗セントロメア抗体が軽度陽性で,その他注目すべき異常は認められませんでした。入院時胸部X線検査では軽度の肺うっ血を認め(図1A),心電図検査では右心負荷を示す所見はなく,心エコー検査では左室収縮は保たれており,求心性肥大,中隔の圧排,右心拡大はいずれも軽度,三尖弁収縮期圧較差(TRPG)は56mmHg,E/Aは0.9でした。胸部CT検査では明らかな肺血栓塞栓を疑う所見はなく,肺動脈拡大と肺野に軽度のうっ血を認めました。肺換気血流シンチグラフィーでは明らかなV/Qミスマッチは認められず,呼吸機能検査でも問題となる異常はみられませんでした。

精査目的で実施した右心カテーテル検査の結果を表1Aに示します。右房圧(RAP)が14mmHg,平均肺動脈圧(mPAP)は47mmHgで肺動脈楔入圧(PAWP)が18mmHgと高く,第2群の左室駆出率(LVEF)が保たれた心不全(HFpEF)に伴うPHが疑われました。そこでまず利尿薬の投与を開始し,右心カテーテル検査で再評価したところ,RAPは5mmHg,PAWPは8mmHgまで低下していたもののmPAPおよび肺血管抵抗(PVR)は依然として高値であり,pre-capillary PHの状態でした(表1B)。膠原病内科の精査により全身性エリテマトーデス(SLE)の合併が認められたため,SLEPAHとして治療についても相談しましたが,皮疹や関節痛などの局所症状が乏しいため免疫抑制薬は併用しませんでした。そこで第1群PAHと判断してマシテンタン・リオシグアト・セレキシパグによるupfront combination therapyを開始,入院時に軽度の脱水傾向があったため利尿薬を減量・中断しました。

図1:胸部X線写真

胸部X線写真


紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので,すべての症例が同様な結果を示すわけではありません。

すると一時的に自覚症状は改善したものの,息切れ症状が出現・増悪しました。右心カテーテル検査ではPVRは順調に低下しているもののRAP,mPAP,PAWPがいずれも再上昇を認め,心拍出量(CO)・心係数(CI)も増加し,左心不全症状が増強しました(表1C)。胸部X 線検査で経過をみても,来院時に認められた軽度うっ血が増悪を示していたため(図1B),リオシグアトを1日7.5mgから3mgに減量して利尿薬投与を再開しました。すると肺うっ血および自覚症状が著明に改善し,現在はWHO-FC I~II度で推移しています(図1C)。

大郷:ありがとうございました。HFpEF合併例のお手本のような症例をご紹介いただきました。最初の血行動態でPAWPが15mmHgを超えていますので,第2群の左心系疾患に起因する後毛細血管性肺高血圧症(post-capillary PH)も疑われたかと思うのですが,その点についてはいかがですか。

中西:ご指摘の通り,最初に利尿薬から開始したのは第2群のHFpEF-PHを疑ったためですが,その後もPH状態が続いたことでHFpEFを合併する第1群PAHであることが明らかとなり,upfront combination therapyを開始したという経緯です。ただ脱水傾向があってもHFpEFに対する利尿薬治療は継続すべきだったと反省しています。

表1:右心カテーテル検査所見

右心カテーテル検査所見


皮疹,関節痛など局所症状は乏しく免疫抑制薬は併用せず。
RAP:右房圧,RVP:右室圧,PAP:肺動脈圧,PAWP:肺動脈楔入圧,CO:心拍出量,CI:心係数,PVR:肺血管抵抗,NIBP:非観血的血圧測定 *:SaO2(動脈血酸素飽和度),**:SvO2(混合静脈血酸素飽和度)

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので,すべての症例が同様な結果を示すわけではありません。

大郷:そうですね。第1群PAHにHFpEFを合併する場合,利尿薬のみでは病態の改善は見込めません。実際,本症例でも肺血管拡張薬による第1群PAHへの介入が必要となったわけですが,upfront combination therapyを選択された理由は何でしょうか。

中西:利尿薬を中断後もpre-capillary PHの要素が強く残っていたためですが,本症例のようなHFpEF合併例ではsequential combination therapyとするか,より慎重に増量すべきだったと思います。

大郷:3系統の肺血管拡張薬の選択,減量・中止の順についても判断に悩むところですが,エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)・プロスタサイクリン(IP)受容体作動薬・可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬のうち,sGC 刺激薬であるリオシグアトを減量していった理由について教えていただけますか。

中西:リオシグアトは体血圧低下作用を有するため,本症例のように高血圧が既往にある場合は選択しやすい薬剤です。また,1系統ずつ中止していく前に,まず用量調整可能なリオシグアトの減量から行うべきと考えました。

大郷:リオシグアトの減量だけで,現在も3系統の肺血管拡張薬を併用しながらコントロールできている点に可能性を感じますね。HFpEFを合併する第1群PAH症例では,用量調整しやすい肺血管拡張薬のメリットが大きいという考え方は今後臨床に活かせるのではと思います。

HFpEFを合併する第1群PAHは経験上,肺血管拡張薬による治療強度が強すぎても,治療を中断しても増悪することが多いように思います。コントロール可能な治療強度の“落としどころ”を探るためにも,用量調整可能な肺血管拡張薬を初期治療から使用することは重要ではないかと思います。さらに長期経過において再調整が必要になった場合のために,リオシグアトを残しておく意義はあるかと思います。中西先生,有用かつ実践的なアプローチをご紹介いただき,ありがとうございました。

治療強化が難しい長期罹患のPAH症例に対するアプローチ

大郷:続いて,足立先生が経験された罹病期間が長期にわたり,積極的な治療強化が困難だったPAH 症例をご紹介いただきたいと思います。

足立:私が紹介するのは病態としてはIPAHで,罹病期間が長く,引きこもり状態が続いている20歳代女性です。小児期に発症し,長期にわたり急な症状悪化を認めていませんがmPAPは高く,intermediate riskとなっています。これまでの経過としては,7年前に学校検診にて心雑音を指摘され,当地域の小児専門施設にて精査されました。そこでmPAP 40mmHgを認め,IPAHと診断されました。その後,当院小児科へ紹介となり,ベラプロストが導入されました。その翌年,さらにワルファリンとボセンタンを導入されましたが,mPAP 41mmHgと改善がみられずシルデナフィルが追加されています。5年前にワルファリンを中止,4年前にはmPAP 48mmHgと依然高値であり,ボセンタンが増量されています。成人期となり,ベラプロスト,ボセンタン,シルデナフィルの3系統の薬剤が導入された状態で循環器内科へ移行されています。

足立 史郎 先生


足立 史郎 先生

既往歴はありませんが,生活制限が強いため引きこもり状態で昼夜逆転しており,無職で家族に依存した生活を送っています。心電図検査では前胸部誘導で陰性T波とR波の増高を認めるもののP波は高くなく,まだ右心が代償できている状態と考えられました。胸部X線検査では右第2弓は拡張していますが,心胸郭比(CTR)は正常でした。呼吸機能検査,血液検査,生化学検査,凝固機能検査,血液ガス測定においても特筆すべき問題はなく,抗核抗体も陰性でIPAHと考えられました。心エコー検査では右室拡大と左室圧排像を認めました。右室面積変化率(RVFAC)32.0%と軽度の右室機能低下を認めていました。運動耐容能は6MWD 428mで最低SpO2は91%で保たれていましたが,心肺運動負荷試験(CPX)では最大酸素摂取量(peakVO2)は18.0mL/Kg/分(予測値59%)と低く,運動時換気亢進を示すVE/VCO2 slopeは42.9%,仕事率に対するVO2増加を示すΔ VO2/WRは5.2とポンプ機能の低下を認めました。胸部MRI検査においても右室拡大を認めました。

7年前の診断時から現在までの血行動態の経過を図2に示します。mPAPとPVRは当院初回評価時まで改善なく,治療効果としては不十分な状況であったため右心カテーテル検査後にボセンタンからマシテンタンに切り替えました。それでも欧州心臓病学会/ 欧州呼吸器学会(ESC/ERS)のPH 診断・治療ガイドライン2015のリスク分類に当てはめると,運動耐容能がintermediate riskに該当するため3),さらなる治療強化が必要です。そこで追加治療として①エポプロステノール/トレプロスチニル持続静注,②トレプロスチニル皮下注,③セレキシパグ内服,④イロプロスト吸入の4つの選択肢を考えました。この方は引きこもり状態で手技やアドヒアランスに不安があることを勘案し,低侵襲で副作用管理が行いやすい④イロプロスト吸入を選択しました。経口・非経口のプロスタサイクリン(PCA)系製剤のなかでは吸入投与のイロプロストは比較的全身への影響が少ないことが報告されており4),アドヒアランスに不安がある患者さんでは有用と考えたためです。

図2:症例:20 歳代女性 治療経過

症例:19 歳代女性 治療経過


PAP:肺動脈圧,PAWP:肺動脈楔入圧,RAP:右房圧,CI:心係数,PVR:肺血管抵抗


紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので,すべての症例が同様な結果を示すわけではありません。

ベラプロスト内服からイロプロスト吸入に切り替えてから3年間の経過では,mPAPが45mmHgから32mmHgに,PVR が11.7Wood Unitsから8.4Wood Unitsに改善し,自覚症状もWHO-FC III度からII度に改善しました(図2)。引きこもり状態からショッピングに出かけられるようになり,外来受診時もおしゃれをして来院されるようになりました。心エコー所見では右室負荷が軽減し,CPXでもpeak VO2は18.0mL/Kg/分(予測値59%)から24.3mL/Kg/分(予測値96%),Δ VO2/WRは5.2から11.4に改善するなど,自覚症状・血行動態とともに運動耐容能に対する改善効果が実感された症例です。

当院ではこれまでに13例でイロプロスト吸入を導入しています。全例が3剤目の併用薬として使用し,1例はエポプロステノール持続静注の導入が困難な状況で,1例はエポプロステノール持続静注の導入を拒否した方でした。イロプロスト初回導入時(n=10)とフォローアップ時(n=5)に右心カテーテル検査を実施しているのですが,初回導入時,フォローアップ時のいずれにおいても吸入後にはmPAPの低下が認められます。さらにフォローアップ時のトラフのmPAPが初回導入時(吸入後)のmPAPよりも低下した症例が複数認められています。

大郷:ありがとうございました。日常臨床では,本症例のように長期経過,引きこもりなどの社会的背景を抱えた患者さんに遭遇する機会は少なくないと思われます。特に長い経過で肺血管拡張薬に対する反応性が必ずしも良好でない場合や,リスク分類でlow riskに該当する項目が認められる場合はわれわれ専門医でも治療強化になかなか踏み切れませんが,足立先生は本症例の運動耐容能がlow riskであった場合は治療介入を考慮されましたか。

足立:本症例の場合,運動耐容能がたとえlow riskであってもmPAP高値が継続していますので,長い経過において右室で代償できなくなれば心不全に陥ると考えられます。長期的な予後を見据えた治療選択として,心不全を起こす前に肺動脈圧を低下させておく必要があります。

大郷:そうするとPCA系製剤の持続静注が選択肢となりますが,侵襲度の高い治療法は自覚症状が軽度であるほど導入のハードルが高くなってしまいます。そこで内服薬の次の一手,持続静注や皮下注とは別の選択肢として吸入薬を追加されたわけですが,全身への影響が少ないと考えられること以外に選択の理由はありますか。

足立:PCA系製剤のなかでは内服薬や注射薬に比べて用量調整の期間が短い点,用量調整が必要となった際に吸入量や吸入回数によるコントロールが可能である点が挙げられます。自覚症状に乏しい患者さんの場合は早期に副作用を経験して休薬や中断に至る恐れがありますので,副作用マネジメントが行いやすい薬剤を選択したいと考えました。ただし,イロプロストは1日6回という頻度で吸入する必要があり,社会的な背景によっては導入が難しい患者さんもおられます。

大郷:イロプロスト吸入の導入時に右心カテーテル検査を実施されていますね。

足立:当院では右心カテーテル検査実施下でイロプロスト初回吸入を行っています。吸入による効果を可視化し,患者さんに「1回吸入することで肺動脈圧がどれぐらい下がるか」をイメージしていただくことでモチベーションを高め,アドヒアランス向上に繋がればと考えています。

大郷:吸入薬ということで利点のある薬剤ですが,その半減期の短さからトラフでの効果が下がってしまうのではと考えられてきました。ただし,先生がご経験された症例ではトラフでも治療前と比べてmPAPの低下が認められたのですね。

足立:そうですね。自験例ではトラフでの効果がみられており,当院ではイロプロスト吸入の導入症例数が増えています。アドヒアランス維持のための工夫は必要ですが,継続が可能であれば効果を実感できる薬剤だと感じました。

大郷:大規模臨床試験のような確立されたエビデンスを示すことが難しい領域ですので,実臨床における症例の積み重ねは重要ですね。Upfront combination therapyが適応されない併存症をもつ第1群PAHでもイロプロスト吸入は活用できそうです。

中西:当院にもよく似た長期経過と社会背景をもつlow riskの若年患者さんがおられますが,エポプロステノール持続静注の導入に踏み切れずにいましたので,本日のお話は大変参考になりました。侵襲度の高い治療に対して患者・家族の受け入れが難しい方や,高齢者でもアドヒアランス維持の工夫ができる方では,吸入薬は有用な選択肢になるのではないかと思います。

大郷:ありがとうございました。本症例のように治療強化が必要な症例でも,その経過や治療反応性,社会的背景によって注射薬や経口薬の導入が困難な場合があります。こうした症例に関しては忍容性やアドヒアランスを考慮し,吸入薬によるアプローチがよい選択肢になりうると考えられます。

臨床において単剤療法が考慮される症例

大郷:6th WSPHでは単剤での導入が推奨される症例について明記されましたが,先生方が日常臨床においてsequential combination therapyを視野に入れ,単剤での導入を考慮される症例についておうかがいしたいと思います。

中西:静脈病変の合併が疑われる場合は単剤かつ少量からの治療導入を心がけています。また,肺疾患を合併するPAHについても酸素化を悪化させる懸念があるため,単剤かつ少量から慎重に増量する必要があります。ただし経験上,“left heart phenotype”のような左心疾患を合併した症例については,循環器内科医が利尿薬や肺血管拡張薬の用量調整でコントロール可能な部分が多いため,必ずしも単剤療法での開始が必須とは考えていません。

大郷:確かに静脈病変や肺疾患の影響が疑われるPAHに関しては単剤からの開始を徹底すべきかと思いますが,左心疾患合併PAH については左心疾患の要素を解消し,早期にsequential combination therapyへ移行するか,あるいは用量調整を行いながらのupfront combination therapyも可能ですね。

足立:そうですね。あと,単剤から開始するのは先天性の体循環-肺循環シャント性心疾患に伴うPAH,遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)に伴うPAH,門脈肺高血圧症(PoPH)などです。これらの病態は肺血管拡張薬の投与後に血行動態の予測がつかないことが多く,臨床ではシャントの有無について極めて慎重に評価しながら単剤で開始しています。

PAHの新たな病態理解と個別化アプローチ

大郷:最後に,PAHの新たな病態とその理解に伴う個別化アプローチのあり方について,先生方のお考えをうかがいたいと思います。

中西:6th WSPH proceedingで示されているinitial upfront combination therapyが適応となる症例のなかでも,臨床では合併症を有し,PHに複数の要素が混在している患者さんによく遭遇します。“Left heart phenotype”や“pulmonary phenotype”などを詳細に見分けて分類し,各phenotypeに見合った肺血管拡張薬の使い分け・用量調整の方針について今後整理していく必要があると考えています。

大郷:そうですね。実臨床のPAH治療で起こってくる課題は,第1群PAH以外の要素がどの程度関与しているのか評価されず,ガイドライン上のリスク因子に基づいてリスク分類がなされ,治療介入が決定されてしまうことかもしれません。もちろん,ガイドラインでは標準化された評価・治療アルゴリズムでないと臨床が混乱するため現状のリスク分類は妥当ですが,循環器内科医としては心エコー所見から左室拡張能を評価し,より詳細なphenotypeを理解・分類して治療を考えていきたいですね。

中西:そうですね。第1群PAH以外の要素,つまり左心疾患や肺疾患がそれぞれどの程度病態に関与しているのか,もっと正確に評価できるアプローチが必要ではないかと思います。

足立:専門施設へのPH症例の集約化の意義は,積極的なinitial upfront combination therapyが適応となる重症例への治療だけではなく,患者さんごとの病態を正しく判別,分類し,適切な治療導入を選択する役割も含まれていると考えるべきでしょう。さらに,治療反応性を含む経過や社会的背景により治療強化が困難な症例にどのように対応するのかなど,経験症例の蓄積およびエビデンスの構築をPH のセンター化により実現できればと考えています。

大郷:ありがとうございました。6th WSPHでは第1群の診断基準の mPAP>25mmHg から 20mmHg への変更が提唱され,今後PAHとして新たに診断される症例数は増加すると予想されます。PAHの多様な病態を評価する基準を明確にしていく必要がありますね。循環器内科だけでなく各診療科がそれぞれのphenotypeを評価し,要素に応じた個別化アプローチを確立していくことが今後重要になると考えられます。本座談会ではその第一歩となる病態理解と治療可能性,および今後解決すべき課題について共有できたのではないかと思います。
本日はありがとうございました。

References

  1. Hoeper MM, Apitz C, Grünig E, et al. Targeted therapy of pulmonary arterial hypertension: Updated recommendations from the Cologne Consensus Conference 2018. Int J Cardiol. 2018; 272S: 37-45.
    著者にBayer 社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。
  2. Galiè N, McLaughlin VV, Rubin LJ, et al. An overview of the 6th World Symposium on Pulmonary Hypertension. Eur Respir J. 2019; 53: 1802148.
    著者にBayer 社より講演料等を受領している者が含まれる。
  3. Galiè N, Humbert M, Vachiery JL, et al. 2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension: The Joint Task Force for the Diagnosis and Treatment of Pulmonary Hypertension of the European Society of Cardiology(ESC)and the European Respiratory Society(ERS): Endorsed by: Association for European Paediatric and Congenital Cardiology(AEPC), International Society for Heart and Lung Transplantation(ISHLT). Eur Heart J. 2016; 37: 67-119.
  4. Picken C, Fragkos KC, Eddama M, et al. Adverse Events of Prostacyclin Mimetics in Pulmonary Arterial Hypertension: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2019; 8: 481.
    著者にBayer 社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

 

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