CIRCLE for PH

新潟大学医歯学総合病院における
肺高血圧症診療と連携の取り組み

新潟大学医歯学総合病院
循環器内科/先進心肺血管治療学講座特任准教授
柏村 健 先生

柏村 健 先生
新潟大学医歯学総合病院

新潟大学医歯学総合病院(新潟市:827床)は,医科31診療科,歯科4診療科の計35診療科を有する県内唯一の大学病院として,また地域特定機能病院として高度かつ先進的な医療を提供している。循環器内科では,まだ治療法の確立されていない時代から積極的に肺高血圧症(PH)の診療に取り組み,最近は慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)症例に対するバルーン肺動脈形成術(BPA)の成績がよいなか,PH全体でよりよい治療ができるよう努めている。「PH診療で正解を得るのは難しい。知識や経験の共有で正解を求めていきたい」という柏村健先生に,PHの現状や課題についてうかがった。

広がる 肺高血圧症診療の裾野

新潟県は日本海に面し細長く延び,海岸線は本土325kmと,東京―名古屋間に匹敵する長さでほかに佐渡島も有しています。そのなかで,新潟大学医歯学総合病院は県のほぼ中心に位置していますが,県内各地から当院への移動は決してアクセスがよいとはいえません。肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は疾患の特性上,頻繁の長距離移動が難しい患者さんも多くおられます。そのため新潟県ではおのずと,各地の基幹病院でもPHの患者さんを診る体制になってきています。

新潟県内各地の基幹病院には,大学病院でわれわれと一緒にPHの患者さんを診ていた医師が数多く勤務しています。そうした医師たちとは気心の知れた間柄であり,電話やメールでPHの診断,治療について質問や相談のやりとりをしています。私自身も,治療に迷う症例については,東京や群馬,長野などのPH診療の経験豊富な医師にアドバイスを求めています。このように,患者さん自身の受診の有無に関係なく,また県内外を問わず,情報共有や意見交換が可能となっていることで,新潟県のPH診療を高いレベルに保つよう心がけています。

かつてPHは,大学病院が診る疾患でした。それが,新潟県では診療経験のある仲間が各地にいることで,当院に紹介できない場合でも確定診断から治療開始を手がけるケースが増えています。全国で進みつつあるPH診療のセンター化にはそぐわない流れですが,軽症の患者さんが放置されたり,患者さんの治療コンプライアンスが低下したりするのを避けるためには,PH診療の裾野が広がる現状は自然の流れと考えています。

引き継ぐ 診療の歴史

当院は新潟県唯一の大学病院として,かねてより難病であるPHの診療を心不全診療の一環として行っています。2000年にはエポプロステノール持続静注療法の導入を大倉裕二先生(現新潟県立がんセンター新潟病院)が手がけられ,2005年には遺伝子検査も塙晴雄先生(現新潟医療福祉大学)が始められ,最近では2016年まで小幡裕明先生(現新潟南病院)を中心に診療してきました。新潟県の患者さんが,新潟県内でも最先端治療が受けられるようにしようと,必死になってPH診療を推し進めてきた歴史が当院にはあります。

私は循環器内科のなかで心不全を中心に診療しており2016年からPH診療を引き継いでいます。また当院では2017年から尾崎和幸先生が冠動脈や下肢治療とともにバルーン肺動脈形成術(BPA)治療を積極的に行っていて,BPA目的での紹介患者さんが増加しており,その効果は私の目には驚異的に映ります。

進める 他科との連携

当院で肺血管拡張薬を投与した患者さんについて,集計可能な2004年以降を調べたところ,総数は107名,PHの内訳として最も多いのは慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)で,全体の26%を占め,次いで特発性あるいは遺伝性肺動脈性肺高血圧症(idiopathic/hereditary pulmonary arterial hypertension:IPAH/HPAH)が22%です。一方,結合組織病が19%,先天性心疾患が15%と続き,ほかにも呼吸器疾患,門脈肺高血圧症,さらには慢性骨髄増殖性疾患などもあり,PH診療のレベル向上には他科との連携が欠かせないと考えています。私は現在,患者さんがいれば膠原病内科や小児科,呼吸器内科のミーティングや回診に出席しており,気軽に相談しあえる関係にあります。特に膠原病に伴うPHについては平均肺動脈圧(mPAP)21〜24mmHgでの発見例もみられます。どの薬剤をどの程度使い,いつ頃心エコー検査,6分間歩行試験,カテーテル検査をするかなど,電話でのやりとりも頻繁になっています。

小児科にはIPAH/HPAHのほかに先天性心疾患に伴うPAHの患者さんがたくさんいて,成人例については担当していた小児科医が他病院に異動するタイミングで循環器内科で診てほしいと紹介されます。肺動脈圧は高めながら10年以上管理していてエポプロステノール持続静注でうまく状態を維持しながら肺移植申請のタイミングを探っている患者さんもいます。

またPHの有無にかかわらず,成人先天性心疾患の患者さんが成人となり,そろそろ小児科や小児心臓外科への通院をしにくくなることも増えてきました。われわれとしてもそうした患者さんを受け入れる心づもりが必要と感じ,成人先天性心疾患の新患外来を,小児科と小児心臓外科との持ち回りで始めました。これまでもPHを伴う心房中隔欠損症の手術中に肺血圧が体血圧に迫って焦らされた患者さん,IPAHの診断で他院で肺移植後に心房中隔欠損がみつかって経カテーテル的閉鎖を要した患者さんもいるなかで,心強い連携です。

工夫する ほどよい診療体制

現在,当院にPH専門外来はまだなく,PAHの外来患者さんは,主に月曜と金曜の一般外来(心不全)の枠内で診ていて,私と林由香先生が担当しています。CTEPHは月曜の尾崎先生が紹介元と連携して診ています。

PHでは服薬や機器の取り扱いなどの患者指導においてスタッフとの協力が欠かせませんが,希少疾患に共通する問題として,患者数の多い疾患のように繰り返し指導することで知識や技術を維持・向上させることが難しいことが挙げられます。特にエポプロステノール持続静注,トレプロスチニル持続皮下注,イロプロスト吸入は,PHならではの治療です。入院でそれらの治療を導入する患者さんが年に1人いるかいないかの状況で,導入となると,病棟の看護師は多岐の業務に携わるなか,マニュアルを取り出して一生懸命対応してくれています。

院内の人材確保や教育も重要ですが,関連する薬剤や機器を提供している企業も知識や情報量が豊富であるため,そうした外部の力をうまく活用することも考えてよいと思います。特に新潟県のような広い地域では関連病院を含め,院内のみで完結することにこだわることなく,患者さんにとってよりよく,スタッフにも負担にならない方法を模索していくのがよいと思います。

めざす 血行動態の改善

最近は連携のおかげで,ご紹介いただく時点で肺動脈圧が比較的低めのケースも多く単剤で経過をみることもありますし,肺動脈圧が高めでも初期から3剤併用療法を開始して状態を落ち着かせることができるようになってきました。それでもより積極的に肺動脈圧を下げたほうがよいのではないかと感じています。BPAの成績がよいからです。

私はPAHでまずは3ヵ月以内にmPAPが40mmHgを下回り,慢性期に30mmHgを割れば,PHの診断基準である25mmHgを割れなくとも治療の強化をせずに様子をみてきました。一方,当院では尾崎先生がこれまで15例のCTEPHの患者さんにBPAを施行しています。治療可能な血管をひととおり治療する方針で,患者さんには3〜4回入院してもらい,1回あたり2〜3セッションが行われます。治療が完結するとmPAPが20mmHg以下と正常となる方がほとんどです。

PAHでもCTEPHのように正常圧となるようより積極的な早期注射薬導入や軽症例への多剤併用をするべきなのかどうか,真摯にみていかないといけないと感じています。

探る 大学らしいよりよいPH診療

治療法のなかった時代には,若くして右心不全で腹水がたまり救命できなかったり,喀血で突然失ったりすることのあったPHは,先人の努力や周囲の協力のおかげで長期生存が見込めるようになりました。それでもまだ課題は多いと感じています。

PHと一口にいっても,その分類からわかるように多岐にわたる原因があって,それぞれの治療の指標や目標もまだまだこれから探っていくことになるでしょう。また,肺血管拡張薬を使用してもみるみる低酸素に陥り救命できず,病理解剖で,腫瘍塞栓(pulmonary tumor thromboembolic microangiopathy:PTTM)や,肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis:PCH)など診断や治療の確立していない疾患が判明するケースも経験します。

新潟大学病院の務めとして若い先生達と多くの症例で経験を共有したり,全国で行われているレジストリー研究に参加したり,臨床からの着想を清水逸平先生を中心とした基礎研究にバトンタッチしたりすることも大切だと感じています。そのためにも引き続き積極的に患者さんを引き受け,先輩後輩や多くの科や施設の先生方と連携して大学ならではのよりよいPH診療を探っていきたいと思います。

<Case example>
紹介受診したが肺高血圧症(PH)ではなかった1例

■tips

  • 希少疾患ゆえに,適格な鑑別は容易ではない
  • 診断に迷いがある症例こそ,専門医に紹介を
  • 肺高血圧症診断の精度向上のためにも,連携は重要

症例の背景

症例 20歳代,女性
主訴 動機・息苦しさ
既往歴 気管支喘息,甲状腺囊胞,顔面神経麻痺
家族歴 父:心膜炎,母:聴神経腫瘍
生活歴 飲酒:なし,喫煙:なし
現病歴 X-1年,検診で心電図異常を指摘され,近医でホルター心電図・心エコー検査を受け,特記所見なく経過観察の方針となった。X年7月頃より動悸・息苦しさの自覚あり,検診で,右房・左房負荷,右軸偏位を指摘され,他院を受診。心エコー検査で心室中隔の扁平化が疑われ,当科を紹介され受診した。

 

症例を振り返って

症例は20歳代の女性です。検診で心電図異常を指摘され,近隣の開業医(循環器専門医)にてホルター心電図や心エコーの検査を受けましたが,特に異常は認められませんでした。ただ,動悸や息苦しさがあり,その後の検診にて右房や左房負荷,右軸偏位を指摘されたため他院を受診し,心エコー検査で心室中隔の扁平化が疑われたため,当科を紹介受診されました。

当院で心エコーを撮ると,右心室が拡大しているようにみえますが,三尖弁逆流速度からの肺動脈圧の推定ができず,肺動脈収縮期流速加速時間/右心室駆出時間(AcT/ET)正常などのデータからPHは否定できそうでした。また,X線写真では顕著な胸郭変形により心臓が縦方向に押しつぶされ,左側への移動も認められたことから,漏斗胸と診断しました(図1)。漏斗胸では胸壁が陥凹して心臓を圧迫するため,動悸や胸痛,呼吸苦などの症状を訴えることがあります。また,心電図では電極と心臓の位置関係がずれて波形が変わるため,右脚ブロックなどの異常が指摘されたのだと思いますが,心エコー検査でPHは否定的でしたので紹介元の先生にお返ししました。

検査所見

【図1】検査所見

ただし後日談があり,患者さん本人は不安が残るという理由で,当院にて右心カテーテル検査を希望されました。検査の結果,肺動脈圧の上昇は認められず,患者さんが不安がる動悸の症状についてはβ遮断と抗不安薬の処方を行い,ようやく安心された経緯があります。漏斗胸のコスメティックな問題が気になるということで,形成外科への紹介も行いました。

結局,PHではなかった症例ですが,患者さんが幼少期から抱いていた症状と不安に寄りそうことができたのは嬉しく思います。また,PHの鑑別について地域の先生と情報を共有するよい機会となりました。講演会などで話す際もこうした症例を紹介しながら,紹介の垣根を下げ重症化してから紹介になる症例を減らしたいです。迷うような症例こそ,躊躇せずに紹介してほしいです。