CIRCLE for PH

東邦大学医療センター大橋病院における
慢性血栓塞栓性肺高血圧症診療の取り組み

東邦大学医療センター大橋病院
循環器内科
池田 長生 先生

池田 長生 先生
東邦大学医療センター大橋病院

東邦大学医療センター大橋病院(東京都目黒区:319床)は,1964年の開設以降,地域基幹病院として住民の健康を守りながら最先端医療の提供に努めている。循環器内科においては,長年にわたる心臓カテーテル治療の技術・経験を誇り,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)症例における肺動脈圧改善にも積極的に応用して,2019年のバルーン肺動脈形成術(BPA)実績は77件に上る。「肺動脈の解剖や病態生理を理解さえすればBPAの手技自体は特殊ではない。心血管カテーテル治療の術者の技術をもっと活用してもらいたい」という池田長生先生に,CTEPH治療の現状や課題についてうかがった。

高度なカテーテル技術 バルーン肺動脈形成術に応用

東邦大学医療センター大橋病院は,区西南部医療圏の基幹病院として,広く地域住民に最先端医療を提供しています。そのなかで循環器内科は,心血管カテーテル治療において長い歴史を誇り,高度な技術と良好な成績によって患者の予後改善を実現しています。カテーテル治療の対象として,冠動脈や末梢血管はもとより,近年は心房中隔欠損症(atrial septal defect:ASD)や弁膜症などのstructural heart disease(構造的心疾患)や,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)の肺動脈圧改善のためのバルーン肺動脈形成術(BPA)にも積極的に取り組んでいます。

都内においては国立国際医療研究センターをはじめとする多数の基幹病院や,県外では小田原循環器病院,太田記念病院などが関連病院となりますが,それらの施設には当科でCTEPHを経験した医師が数多く派遣されています。そのため当科には,関連病院でCTEPHを疑われ,精査あるいはBPA目的で頻繁に患者が紹介されてくる状況です。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症への理解 患者を顕在化

私は2011年から5年間,国立国際医療研究センターに派遣されていますが,そこで年1回,各自テーマを持ち寄り発表する医局勉強会がありました。教授から肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)をテーマとして与えられた私は,CTEPHへの理解を深めるべく川上崇史先生(慶應義塾大学)の講演会に参加し,そこでBPAの手技を知ると同時に,外来に適応患者がいると気づいたのです。

ちょうど,松原広己先生(独立行政法人国立病院機構岡山医療センター)が“Circulation: Cardiovascular Interventions”に論文1)を発表された時期と重なります。肺動脈内膜摘除術(PEA)の適応とならないCTEPHに対する画期的な治療法として,BPAが国内でいっきに注目を集め始めた頃,私も国立国際医療研究センターで1例目を施行することとなりました。CTEPHについてひとたび理解すると,規模の大きい外来だけに次々と患者がみつかり,その後,10名程度の患者でBPAを施行しました。

2016年に東邦大学医療センター大橋病院に戻ると,そこにもCTEPHの患者がいて,短期間で3~4名にBPA治療を行いましたが,その後も適応患者が途切れることはありませんでした。恐らくCTEPH患者は,原因不明の症状として医療機関を受診しています。そこに専門知識を得た医師が1名でも踏み込むことで,いっきにCTEPHとして顕在化し,治療に結びつくのだと思います。

治療に選択肢 予後改善へ

東邦大学医療センター大橋病院に戻ってから,これまで45~50名の患者に対しBPAを施行しています。CTEPH患者は高齢であることが多く,病態や治療について十分な理解を得にくいこともあります。それでも,薬物療法とBPA,PEAについて説明を重ね,予後についても平均肺動脈圧(mPAP)が30mmHgを超えると5年生存率50%,40mmHgを超えると30%,50mmHgを超えると10%2)であることを事実として伝えています。そのうえで,BPAかPEAかの選択肢がある場合,患者は極力,低侵襲を希望する傾向にあり,ほとんどが「できればカテーテル治療で」と答えます。BPAの領域で治療効果を記した論文の多くが日本発であることも,BPAが選択されやすい日本の状況を表しているといえます。

従来,CTEPHであっても確定診断に至らない患者も多くいました。また治療法もPEAのみであったのが,薬物療法の発展やBPAの登場など,多様なアプローチで予後改善が可能となったことは,PH診療のなかでもCTEPHの大きな特徴ではないかと思います。

急性肺塞栓症が慢性血栓塞栓性肺高血圧症発見の契機に

この数年,CTEPH患者を診ながら感じるのは,当科で診るのはいわゆるPHセンターが診る患者と背景が異なり,圧倒的にacute on chronic pulmonary embolismが多いという点です。つまり,当院で診るCTEPH患者の多くは,年間に2万人と推定される急性肺塞栓症を入り口とすると考えています。急性肺塞栓症からCTEPHへの移行は,報告により0.1~9.1%とばらつきがありますが,急性肺塞栓症患者をよくよく診ると,すでに一定の割合でCTEPHを合併していることに気づきます。

PHセンターが診るCTEPHは,恐らくPHとして紹介を受け,精査するうちにPHの第4群と判明する流れかと思います。一方,当科では,肺塞栓症で治療にてこずる患者の相談や紹介を受けるうち,CTEPHと判明することがほとんどです。そもそも,当院の関連病院において,肺塞栓症でてこずること自体が普通のことではありません。CTEPH患者に,新鮮血栓によるイベントが加わることで発見された患者は,新鮮血栓が溶けても血行動態が正常化せず管理に難渋をすることになるわけです。このようにてこずる肺塞栓患者にはCTEPHや慢性血栓塞栓性疾患(chronic thromboembolic disease:CTED)が潜んでいると考えています。

紹介のハードル なるべく低く

CTEPH患者については,関連病院のほかにも,地域の開業医や病院の先生からも紹介を受けることがあります。循環器内科では定期的に地域の先生方を招き,BPAを含め新しい治療法などの情報発信を行っていますが,そこで知り合った先生からCTEPH疑いの患者を紹介される機会が増えました。

結果として,CTEPHではなく,加齢による呼吸機能低下なども多く含まれるのが現状です。ただ,CTEPH患者は原因不明の息切れを主訴とするだけに,複数の医療機関を回って確定診断に辿りつくケースも少なくありません。そこで当科では,患者の自覚症状のみで,なるべく早期に紹介してもらえる関係づくりを心がけています。

関連病院では循環器内科の専門医が診るため,肺血流シンチグラフィや,少なくともCT検査まで施行してから紹介してくれますが,地域の開業医では心エコーを撮れる施設も限られています。そもそも希少疾患であるCTEPHの紹介のハードルを上げる理由はないと考え,「肺塞栓症や深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)の既往あり」をキーワードとして,「既往プラス原因不明の呼吸困難があれば紹介して下さい」と伝えています。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の妊娠・出産

当科ではこれまでさまざまなCTEPH患者を診るなか,患者の妊娠・出産も経験しています。数年前,近隣クリニックから30歳代の女性PH患者について紹介を受けました。年齢的にPHの第1群と判断し,状態が悪かったこともあり即入院となりました。妊娠・出産を希望していましたが,われわれは第1群と思っていたため母胎の安全を優先し,いったんは諦めるよう説得しています。ところが,精査を重ねるうちCTEPHと判明し,BPA施行の方針となりました。その際,医師として賛成はできないもののリスクを承知のうえで妊娠・出産を希望するなら,われわれも努力する旨を伝えました。そして,1ヵ月半で6セッション施行して,当初のmPAP 50mmHg台から10mmHg台まで低下したため,催奇性のある抗凝固薬からヘパリン皮下注に変え,3ヵ月間mPAPを維持できれば妊娠を考えることで合意しています。経過観察によりmPAPは維持できていたため,再度インフォームド・コンセントを行い妊娠・出産を許可したところ,比較的早めに妊娠されました。ただ,当院には産科がなく,東京大学の波多野将先生に事前に相談して産科につないでもらい,無事出産に至った経緯があります3)。

第1群と異なり,CTEPHで妊娠・出産は禁忌とまでは明記されていません。しかしながら,周産期が静脈血栓症ハイリスクであることや,PHの妊娠・出産が禁忌である以上,CTEPHにおいても病態を悪化させる可能性は十分にあり得ます。ただ,CTEPHは血行動態が極めて正常に近いレベルまで治療可能であることは,PHのなかでも大きな特徴です。新たな血栓症のリスクへの配慮が必要であることを除き,血行動態だけをみれば妊娠・出産を検討できるレベルまで治療可能といえます。さまざまなCTEPH患者を診るなか,BPAの有効性,安全性が確立されつつあることは,患者にとって大きな励みとなりますが,新たな課題も生まれていると実感しています。

理想は慢性血栓塞栓性疾患(CTED)での紹介

先に述べたように,当科では圧倒的にacute on chronic pulmonary embolismの患者が多く,CTEPHやCTED患者が新たに血栓症を起こした状態で紹介されてきます。そもそも肺は,豊富な予備血管床の動員により肺動脈圧上昇が緩衝されるため,肺機能が徐々に障害されてもmPAPは急激に上昇しません。CTEPHとされるmPAP 25mmHg以上の合併の段階では,肺はすでに7~8割障害された状態です。そのため患者の紹介も,できればCTEPHにまで到らない症候性のCTEDの段階で受けることが望ましいと考えています。CTEDの段階で発見される患者は,比較的年齢が若く,活動的です。CTEPHまでいかないでも息切れするのは,それだけ日常生活で動いているためと考えられます。就労世代で日々仕事をこなしながら,不摂生な生活を送っているわけでもないのに息苦しい。心エコー,心電図,CT検査でも正常,ただし肺血流シンチグラム所見で高度な欠損が認められる点が手がかりとなるはずです。CTEDに対しては,当科では抗凝固療法に加え積極的にBPAを施行していますが,CTED,CTEPHの患者のいずれも,BPAが成功すれば劇的に呼吸の苦しさから解放されます。

恐らく地域の先生の間では,CTEDの病態自体が知られていないと思います。CTEDの認識が高まれば,おのずとCTEPHに対する関心の裾野も広がっていくはずで,そこは広く情報発信をすることもわれわれの責務として,1人でも多くの患者を早期治療に結びつけたいと思います。

カテーテル技術 慢性血栓塞栓性肺高血圧症診療向上へ

BPAを手がけるうえで,今後の課題としては完全血行再建をめざすことを挙げたいと思います。CTEPH患者において,健常人と変わらないQOLを実現するには完全血行再建が必要であり,それにより呼吸が楽になり,喜ぶ患者の姿をみると医師として大きなやりがいを感じます。

当科ではカテーテル治療における高度な技術と良好な成績を背景に,細かい血管でもターゲットとし,完全血行再建をめざすレベルを実現できていると思います。心血管カテーテル治療の領域では,冠動脈慢性完全閉塞病変(CTO)に対するレトログレードアプローチを用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行が,治療成績の改善に貢献しています。CTOにより不足した血流量は側副血行路によって補われていることが多く,順行性に血管への侵入が難しい場合,側副血行路側から逆方向にガイドワイヤーを通過させる方法で,われわれはこの手技を肺動脈に応用しています。呼吸性の変動などもあり技術的には高度ですが,心血管カテーテル治療の術者にすると理論としてはシンプルで,こうした手技を駆使できるのは当科の強みではないかと自負しています。

また,完全血行再建をめざすうえではリスクとベネフィットのバランスを図ることも重要で,患者1人当たり何十セッションもBPAを行い,造影剤使用量や放射線被曝が増えることは避けなければいけません。患者負担を極力排除したうえで良好な成績を実現することが必要です。そのためには,BPAの領域において,われわれ心血管カテーテル治療の術者の技術をもっと活用してもらいたいと考えます。ただし,CTEPHの病態を十分理解しないまま施行して合併症を起こすようなことは極力回避すべきです。そのためわれわれがBPAを行うにあたって,PHへの精通が必須であることは十分承知しています。そこは,PHを専門とされる先生方の知識や経験を情報共有し,心血管カテーテル治療を専門とするわれわれの技術とうまく融合させながら,患者にとってよりよい方向性を一緒にめざしていきたいと思います。

文献
1)Mizoguchi H, Ogawa A, Munemasa M, et al. Refined balloon pulmonary angioplasty for inoperable patients with chronicthromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv. 2012;5:748–55.
2)Riedel M, Stanek V, Widimsky J, et al. Chest. Longterm follow-up of patients with pulmonary thromboembolism. Late prognosis and evolution of hemodynamic and respiratory data. 1982;81:151-8.
3)Ikeda N, Hatano M, Nagamatsu T, et al. Successful Right Heart Remodelling and Subsequent Pregnancy in a Patient With Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension Undergoing Balloon Pulmonary Angioplasty:A Case Report. Eur Heart J Case Rep. 2019;3(2):ytz063.

<Case example>
急性肺塞栓症の既往があるacute on chronic pulmonary embolismの1例

■tips

  • 急性肺塞栓のなかにすでにCTEPHである症例が存在する
  • 回復が遅い急性肺塞栓症は,acute on chronic pulmonary embolismを疑う
  • 血栓が消失しても呼吸症状が残存すれば,専門医に紹介を

症例の背景

症例 30歳代,男性
主訴 呼吸苦
既往歴 肺塞栓症・深部静脈血栓症
家族歴 なし
生活歴 機会飲酒
内服歴 なし
現病歴 X-7年に肺塞栓症・深部静脈血栓症で6ヵ月間の抗凝固療法を受けた。X年に労作時呼吸苦と持続する頻脈の精査目的で他院に入院。心エコー検査で右心負荷所見,CTで両側肺動脈に血栓が確認され急性肺塞栓症と診断とされた。組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA),抗凝固療法によりCTでの血栓は減少し,患者の症状も改善したが,心エコー検査での推定肺動脈収縮期圧が79mmHgと高値であることに加えD-shapeが残存した。Acute on chronicの肺塞栓症が疑われ,精査加療目的で当院へ転院搬送となった。

 

症例を振り返って

症例は,関連病院からの30歳代,男性の相談例で,急性肺塞栓症との診断により入院によるtPA療法を施行しても状態が改善せず,当科転院となりました。急性期の造影CT所見では肺動脈内に血栓が認められ,急性肺塞栓症の診断で間違いないと思われました。同時に,胸部単純X線写真では肺動脈が拡大,心エコー検査では右室拡張と左室圧排(D-shape)が認められましたが,これらはPHに限らず急性肺塞栓症の診断にも合致する所見です(図1)。

検査所見

【図1】検査所見

当科でも急性肺塞栓症と考えながら,tPA療法や抗凝固療法でよくならないのはおかしいとさらに3ヵ月以上の内服を継続したところ,画像所見で壁在血栓のみ残り急性期の血栓はすべて消失しましたが,肺動脈拡大やD-shapeは改善されませんでした。本症例はやはりPHが残存するacute on chronic pulmonary embolismでした。右心カテーテル検査の結果,mPAP 37mmHgのCTEPHと確定診断し,BPAを施行してmPAP 21mmHgまで低下しています。

このような急性肺塞栓症の症例でt-PA療法により改善しない場合,一般的には溶けにくい血栓という認識で漫然と治療され,CTEPHの診断につながらないことも珍しくありません。そこを早期に相談を検討してもらえたのは,患者の予後を考えるうえで非常によかったと思います。急性肺塞栓症の既往があり,息切れなどの症状が残る人は,CTEPHが残存するacute on chronic pulmonary embolismを疑って,積極的に専門医に紹介してほしいと思います。