CIRCLE for PH

Doctor & Patient
医療心理学:医療心理学総論(後編)

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医療心理学:医療心理学総論(後編)

【監修】
早稲田大学人間科学学術院教授
鈴木 伸一先生(公認心理師・医療心理士)

【略歴】
岡山県立大学保健福祉学部講師,広島大学心理臨床教育研究センター助教授,早稲田大学人間科学学術院准教授を経て2010年より現職。東京女子医科大学病院循環器内科,広島大学病院,国立がん研究センターなどでの心理師としての職歴も豊富。専門は,認知行動療法,医療心理学,行動医学など。

チーム医療における公認心理師の役割

前編では,現代医療は患者さんにおいて多彩な心理社会的問題が生じやすく,心理学を用いた心のケアのニーズが高まっている状況について述べました。また,今後,患者さんの心のケアに当たる心理職は公認心理師に統合されていくことを予想しました。

後編では,実際の医療現場において,どのような心理学的介入を行うことができるのかについて考えてみたいと思います。

まず,医療現場においては,患者さんとの面接や心理検査の結果をふまえた心理学的評価,患者さんへの心理教育,心のケアなどの心理学的介入を行うことが可能です。疾患が違えば求められる専門性も異なるため,前編でご紹介した「がん専門公認心理師(仮称)」などによる疾患特異的な心理学的介入は,患者さんのよりよい予後を実現するうえで役立つでしょう。

現在のチーム医療においては,医師や看護師,薬剤師などがそれぞれの専門性を発揮しながら活躍しています。それと同じように,チーム医療の一員として心理師が専門性を発揮することは,より専門的な心のケアの実現に貢献するものと考えられます。

医療者と患者の橋渡し役の重要性

医療現場における,患者さんの心の問題はじつに多彩です。医療の質の低下を防ぐためにも,きめ細やかな心のケアなどの心理学的介入を行うことは理想的です。しかしながら,病棟や外来で生じるすべての心理社会的問題に心理師が対応するのは困難なことです。

500床規模の病院であっても,配備される心理師は1名であることが一般的です。多くの患者にとって身近な存在となりがたく,患者さんとの日常的なかかわりは看護師が中心となるのが現実的です。現に,患者さんの身体的状況をよく知る看護師が対応すべき問題も多いでしょう。

ところが看護師は,当然ながら心の専門家ではありません。「患者さんに対し,どのような言葉をかければ落ち着くのか」「どのような対応をすれば,患者さんは元気になるか」と悩み,苦労していることも少なくないのです。

このような場合,心理師が客観的な視点で状況を見極め,アドバイザー役として看護師の役割や対応方法をコンサルテーションすることが可能です。具体的には,心理師が患者さんに複数回の面接を行ったうえで,状態や心情を把握し,看護師に患者さんへのかかわり方をアドバイスするというものです。看護師は,患者さんとのかかわりにおいて直面する問題を解決でき,その成功体験は,心理的エッセンスを活かした看護を重視するきっかけとなるでしょう。

どの疾患で心理学的介入のニーズが大きいか

 

【表1】身体疾患とうつ病

【表1】身体疾患とうつ病
(文献1)より引用)

海外では,がんや心臓病,糖尿病などの罹患頻度の高い疾患について,心理面の評価を行うことがガイドラインなどで推奨されています。日本においても,身体疾患患者におけるストレスや不安の問題について,医療者側の認識は高まりつつあると考えられます。

では,身体疾患患者における「医学的な治療だけではなく,心も支えてほしい」というニーズは,どのような疾患において大きいのでしょうか。身体疾患を有する患者さんにおけるうつ病の発症率を検討した報告1)によると,悪性腫瘍や慢性疼痛など,さまざまな疾患でうつ病の頻度が高いことが明らかとなっています(表1)。つまり,身体疾患をもたない人に比べ,身体疾患を有する患者さんは,疾患や治療の存在が,それだけで大きな心理的負担となっているのです。

また,うつ病の併存については,悪性腫瘍や慢性疼痛が注目されがちですが,患者数の少ない希少疾患においても,実績こそないもののニーズは大きいと考えられます。希少疾患ゆえ,医療者はいかに患者さんの身体的問題を解決するかにとらわれやすく,あらゆる場面で患者さんの心情を推し量る姿勢や配慮,検査や治療に伴う苦痛への対応が十分でない可能性があります。

生命予後改善という名目のもと行われる医療行為は「患者さんのため」でありながら,じつは患者さんにとっていいようのない不安や恐怖,絶望を生じさせる要因にもなりかねません。その点を医療者は認識し,患者さんの心理社会的側面への理解とケアを治療の各段階に組み込んでいくことが望まれます。

患者さんと向き合う医師へのメッセージ

最後に,医療者のなかでも,治療の選択や提供の場において,患者さんと重要な会話を交わすことの多い医師にメッセージを送りたいと思います。

医療のなかにインフォームドコンセントの理念が浸透するにつれ,治療上のさまざまな情報が開示されるようになり,患者さん自身が治療の方向性を決めることのできる時代となりました。そうしたなか,医学的知識に乏しい患者さんは,何を基準に判断をすればよいかわからず,混乱していることも少なくありません。情報量の少ない希少疾患ではなおのことです。そこで,患者さんは理解しづらかった部分を聞きたくても,医師はみるからに多忙で,質問できずに悩んでいることが多いのです。

医師には,最低限のコミュニケーションから脱し,患者さんが質問したいことを気兼ねなく口に出せる雰囲気と時間をもっていただきたいと願います。患者さんに情報を伝えて終わりではなく,「何か不安なことはないですか」という一言を添えるだけで,副作用に関する重要な情報などが得られ,より適切な治療につながることもあるでしょう。

このような患者さんとの距離を埋める媒介者として,心理師は患者さんに安心感を与え,納得して治療を選択するための支援を行うことが可能です。患者さんが治療に前向きかつ主体的に取り組めるよう,心理師の専門性などをうまく活かしながら,患者さんの心の問題にきめ細やかに目を向けていただきたいと思います。そのことが,医療の質の向上につながり,ひいては現代医療のさらなる進歩・発展につながっていくことを期待したいと思います。

文献
1)Wise MG, Rundell JR, editor. Textbook of Consultation-Liaison Psychiatry : Psychiatry in the Medically Ill. 2nd ed. Washington DC ;
American Psychiatric Press : 2002.