CIRCLE for PH

大阪医科大学附属病院における
膠原病に伴う肺高血圧症診療の取り組み

CIRCLE for PH

大阪医科大学附属病院における
膠原病に伴う肺高血圧症診療の取り組み

大阪医科大学附属病院
リウマチ膠原病内科科長/ 内科学IV 教室准教授
武内 徹 先生

武内 徹 先生
福島県立医科大学附属病院

大阪医科大学附属病院(大阪府高槻市:882床)は,JRと私鉄駅に隣接する交通至便の地において,29診療科と14中央診療部門を有し,大阪府北部の地域医療の要を担っている。1994年に開設されたリウマチ膠原病内科は,現在4,000名近い膠原病患者を抱え,間質性肺炎や肺高血圧症(PH)などの肺病変を併存する多彩な病態に対し,きめ細やかな診療を提供している。「個々の病態に合わせたテーラーメイドの診療が理想」という武内徹先生に,膠原病性PHの多様性や治療戦略,課題についてうかがった。

大阪府北部膠原病診療の要

大阪医科大学附属病院リウマチ膠原病内科は,1994年,槇野茂樹・前教授により呼吸器内科から分派し,新たに開設された診療科です。前身の呼吸器内科では間質性肺炎などを多く診るなか,患者さんの半数近くは全身諸臓器を傷害する膠原病を併存しており,より専門的診療を行うべく診療科を独立させた経緯があります。

医師は私を含め3名でのスタートでしたが,90年代後半になると,膠原病のなかでも特に関節リウマチ(rheumatoidarthritis:RA)は新規治療薬の開発により著しく治療が進歩し,若い先生方が関心をもって入局してくるようになりました。

歴史の浅い診療科ではありますが,関西で膠原病を専門的に診る施設は少なく,当科には多くの患者さんが集まります。診療圏は京都の西側から北摂地域を中心に,駅前という立地のよさから福井県の小浜や神戸方面からも患者さんが受診しています。

現在,年間管理患者数は約4,000名で,新患患者も年々増えています。膠原病の種類別ではRAが約1,600名と最も多いものの,強皮症(systemic sclerosis:SSc)や全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE),混合性結合組織病,シェーグレン症候群など,多様な膠原病を診ているのも当科の特徴です。

新患患者の多くは,レイノー症状や抗核抗体陽性の検査結果に基づき,精査目的で紹介されてくるケースがほとんどです。当院にて診断後,RAは地域の専門クリニックに逆紹介しますが,その他の膠原病に関しては,軽症例も含め当科にて継続して診ていくことになります。

膠原病の多様性に対応充実の専門外来

当科では5年前より,患者さん個々の病態に合わせた専門的診療を提供すべく,「リウマチ外来」「リウマチ膠原病肺疾患外来」「膠原病母性外来」「SLE外来」「関節エコー外来」の5つの専門外来を設けています。

膠原病の患者さんは挙児希望やその可能性のある10代~40代女性が多く,特にRAやSLEは妊娠や出産をきっかけに病状変化が懸念されます。そこで当院の産婦人科と提携し,妊娠前から出産後の問題について,「膠原病母性外来」(毎週火曜午前・午後)にて相談や治療に当たっています。

また,膠原病では,間質性肺炎や肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)などの肺疾患を併発しやすいことから,肺の状態を定期的に評価し,早期診断・治療介入を可能とすることを目的として実施しているのが「リウマチ膠原病肺疾患外来」(毎週月・水曜の午後)です。

このような外来の細分化は,当科のスタッフ数の充実があってこそ実現できているものです。現在,当科には20名前後の医師(非常勤含む)が所属し,多くのスタッフが専門性を追求できる環境にあります。

内科という基本領域のもと,サブスペシャリティ領域の1つである「リウマチ科」のなかでもさらに細分化されたテーマをもち,臨床・研究に励む医師が集まっている状況です。そこから得られた知見や経験を患者さんにフィードバックし,診療科全体としてより質の高い膠原病診療を可能とする好循環を生んでいるといえるでしょう。

膠原病の難治性病態の1つ肺高血圧症

膠原病はその特徴として,多臓器疾患のなかでも肺疾患を併発しやすいことが知られています。特に間質性肺炎は頻度が高く,当科の患者さんでも600名程度で併存が認められています。PHは患者数こそ減りますが,PHの病態からみると,特発性の肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)に比べ,膠原病性PHの予後は不良です。つまり,PHは膠原病の難治性病態の1つであり,膠原病患者さんの予後改善において,PHの早期診断・治療介入は不可欠となります。

膠原病患者さんは,当科を受診する時点でPHを併存していることは少なく,膠原病に対する治療を継続していく経過において,PHを発症していきます。膠原病の種類により発症時期も異なり,SLEや混合性結合組織病の場合,疾患活動性の上昇とともにPHを発症するのが特徴ですが,SScは病勢に関係なく,10年,15年経ってから発症するケースも珍しくありません。

そのため,膠原病患者さんでは,定期的なPHのスクリーニングが必要です。膠原病と診断した時点で,右心カテーテル検査を循環器内科に依頼する以外,心エコー検査,呼吸機能検査,胸部CT,肺換気・血流シンチグラフィー,6分間歩行テストなどはひと通り,当科にて実施しています。

SLEや混合性結合組織病で入院加療が必要となれば,その都度肺の状態の評価を行い,SScの場合は患者さん個々の症状をみながら1~2年に1回,検査を実施していきます。

YesかNoで終わらせない問診のコツ

膠原病に伴う多臓器疾患のなかでも,PHを患者さんに説明するのは難しいものがあります。「肺動脈の血圧が高くなる病気」と述べてうなずく患者さんは,まずいません。

そこで,心臓や肺の構造やはたらきについて平易に説明したうえで,さまざまな原因により肺小動脈が細くなって肺動脈圧が高くなること,肺動脈に血液を送り出そうと右心室が心筋を肥大させること,このような負荷のかかった状態が続き右心不全の状態となることを説明したうえで検査を実施していますが,息切れや呼吸困難などの自覚症状がない段階では,なかなか自身の問題としては捉えにくい様子です。

また,患者さんには,息切れや呼吸困難などの症状があれば,受診時に申し出るよう促していますが,PHに特異的な症状ではないために,患者さんもいいだしにくい場合があるようです。

そのため重視しているのが,医師の側から積極的に,患者さんの生活動作を聴取するということです。診察時,「体調に変化はありませんか」と聞いても,患者さんからの回答は,YesかNoに限られます。そこで,普段の会話から患者さんがどのような生活を送っているかを聞き出しておき,定期的に,それが維持できているかを確認するのです。

YesかNoで終わらせない問診のコツ

旅行好きの患者さんなら,「結構歩いたのではないですか」などと話しながら,さり気なく歩行距離を確認します。そうした工夫により,患者さん自ら訴えることがなくても,息苦しさや呼吸困難などの症状を早めに把握するよう心がけています。

膠原病と肺高血圧症専門医間の連携

当科で診る膠原病患者さんは,軽症での紹介例も多いため,なるべく早くPHを発見することが可能と考えられます。

ただ,難しいことに,心エコー検査では確実に右室肥大所見が認められても,複数回の右心カテーテル検査で肺動脈圧上昇が認められない患者さんもいるのです。エコー所見のみでは治療介入ができないため,ある患者さんは5年間で3回,右心カテーテル検査を施行して,それでも所見が得られませんでした。PHとして治療介入しないまま時間が経過し,進行した状態になってようやく診断が確定する可能性も考えると,早期診断・治療介入が理想とはいえ,その難しさを痛感しています。

このように,膠原病性PHの診療では悩むことも多いですが,近隣にはPHの重症例が集まる国立循環器病研究センターがあります。病態によっては当科から患者さんを紹介し,並診しているケースもあります。また,ある膠原病患者さんは10年近く当科で診ているなか,息切れを訴えたため心エコー検査を実施し,慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)であることが判明しました。CTEPHは抗凝固薬やバルーン肺動脈形成術(BPA)の適応となるため,より専門的治療が必要と判断し,国立循環器病研究センターに紹介しています。

逆に,国立循環器病研究センターで治療を受けていたPH患者さんで,数年後にSScであることが判明し,当科に紹介されてきたケースもありました。このように最近は,膠原病の病態がありながらその要素が乏しいために診断に至っていないと疑われるPH患者さんについて,PHの専門医から当科に紹介される機会も増えています。

極めて多彩膠原病性肺高血圧症の病態

当科では膠原病をフォローアップしていくなか,PHについても比較的軽症で発見できており,治療は原則経口薬のみで対応しています。

ただし,膠原病の種類によりPHの治療方針も少しずつ異なり,血管の炎症によるSLE,混合性結合組織病の場合は,ステロイドと免疫抑制薬を先行し,それでも効果不十分な場合にPAHの治療薬を併用します。一方,SScの場合,血管の炎症の要素が少なく,免疫抑制療法では効果が得にくいことから,経過観察とするか,PAHの治療薬を使用することが多いです。

膠原病性PHの特徴として,肺動脈性や左心室疾患や呼吸器疾患/低酸素に伴うもの,CTEPHと呼ばれる病態など,多様な要素が関連しています。最近では,SScによるPAHには肺静脈閉塞症(pulmonary venoocclusive disease:PVOD)が合併し,治療反応性不良の一因となっていることも明らかとなってきています。

さらに,膠原病患者さんでは異なる病態を2つ,3つ併せもっていることも少なくなく,どの病態が患者さんのPHに最も関与しているかがわかりづらいという問題もあります。すると,現在,PAH治療の主体となりつつあるupfront combination therapy を適用することは,場合によって患者さんに不利益となることも想定され,様子をみながら,十分な慎重さをもって治療を追加していく必要があります。

また,膠原病患者さんは他の臓器障害もあるため,薬の相互作用に留意した服薬管理も重要です。PHの薬物療法を開始する際は,患者さんにいったん入院してもらい,病態や治療方針について十分な説明を行うと同時に,薬による反応なども評価しながら治療導入することを重視しています。

予後改善めざし地域で情報共有

膠原病性PHも治療法の進歩により,以前に比べずいぶん予後改善が期待できる時代となりました。ただ,実臨床においては先に述べたように,多彩な病態を目の前にして判断に迷い,悩むケースも多く,解決できていない問題が多いのも事実です。

特に治療について,PAHの治療薬は増えたものの,膠原病性PHの複雑な病態を考えると,治療は一義的なものではなく,患者さん個々に検討する必要があります。つまり,膠原病の種類や症状,PHの病態に合わせたテーラーメイドの治療が理想といえますが,そこは希少疾患であるゆえに,大規模でのいわゆる質の高い研究を実施することは困難です。すると,患者さん個々に行うテーラーメイド治療の選択基準としては,われわれの経験と,患者さん本人,ご家族との話し合いが中心とならざるを得ません。

予後改善めざし地域で情報共有

ただ,1つ希望がもてるのは,われわれは現在,同じような立場の仲間と情報を共有できる環境にあることです。膠原病を専門的に診る施設は全国でも限られていますが,近畿地区では現在,当科のほかに京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科,近畿大学病院血液・膠原病内科などの医師が集まり,All関西でカンファレンスを行っています。施設のなかであれこれ悩むより,地域のなかで症例提示を行い,情報を共有し,臨床にフィードバックしていくことは,われわれの専門性を向上させるうえでも,また患者さんの予後改善においてもメリットは大きいでしょう。

そうしたなかから,エビデンスの創出までは難しいかもしれませんが,臨床で役立つ有用な診断なり治療なりの方法が確立され,膠原病性PHという複雑かつ難解な病態に新たな道が開けていくものと期待しています。

<Case example>
長期定期受診ののちに診断された肺動脈性肺高血圧症(PAH)の1例

tips

  • 膠原病に伴う肺高血圧症は頻度が低いゆえ,フォローアップでは目を光らせる
  • 患者さんの生活動作の変化を察知し,肺高血圧症の早期診断につなげる
  • 希少疾患だけにエビデンスの蓄積は難しくとも,症例・情報共有を臨床の糧にする

症例の背景

症例 70歳代,女性(PAH)
主訴 労作時息切れ
既往歴 SSc,間質性肺炎
現病歴

X-9年頃より右第2指の腫脹と指尖潰瘍を認め,近医皮膚科を受診し当科に紹介。レイノー症状,爪上皮出血点,毛細血管拡張,皮膚硬化を認め,抗核抗体陽性(discrete speckled),抗セントロメア抗体陽性,胸部高分解能CTにて両側下肺野・背側優位の間質性肺炎があり,SScと診断。対症的な治療と,血液検査・胸部高分解能CT・呼吸機能検査・心エコー検査を定期的に受けていた。X年1月頃から階段昇降時に息切れを自覚していたが,すぐ楽になるため放置していた。同年5月中旬頃より早歩きで息切れを自覚するようになり,5月20日定期受診時に心エコー検査を施行。駆出率(EF)62%,推定右室収縮期圧(eRVSP)は前回値40mmHgから54mmHgと上昇を認め,右心カテーテル検査目的で6月4日入院。

肺換気・血流シンチグラフィーV/Qミスマッチを認めず,胸部高分解能CTにより両側下肺野・背側優位の間質性肺炎を認めた。間質性陰影は変化なし。呼吸機能検査:FVC% 86.7%,FEV1.0% 84.7%,DLCO 16.7%,DLCO/VA 26.8%,PCWP 6mmHg,PA 53/18/(33)mmHg,CO/CI(サーモダイリューション法)4.74/3.59,PVR 9.4Wood Units(図1)。

症例の背景

【図1】検査所見

症例を振り返って

本症例は,当科を受診してから8年近く定期受診を続けたのち,自覚症状として息切れが出始めたケースです。当科初診時に間質性肺炎を認めていたため,2年に1回の心エコー検査でフォローアップを行っていましたが,患者さんから息切れについての訴えはありませんでした。

患者さんのなかには,われわれ医師の側が多忙そうな様子をみて,診察時にいろいろ話すことを遠慮する方もいます。ですから,診察時間も限られてはいますが,会話のなかから患者さんの生活動作を把握し,定期的な検査とあわせ,変化が生じていないかをみつけることが重要となります。

本症例も,何気ない会話のなか,息苦しさを想起させるような話題を持ち出されたため,心エコー検査,右心カテーテル検査を施行し,PHと診断することができました。短い診察時間のなか,患者さんの生活動作の変化に注意を払うことで,重症化する前に治療介入できたケースといえます。

今振り返れば,もう少し検査の頻度を高め,息切れの症状が出現する前に治療介入できればなおよかったと思います。ただ,患者さん自身も,PHについて予備知識はあったものの,まさか自分が発症すると思っていなかったそうで,医師との雑談のなかでポロっといったことが早めの診断につながり,治療も経口薬で済むことについて喜んでいます。現在入院中で,これから治療方針の選択に進みますが,患者さんは,PHの治療についても非常に協力的な姿勢で向き合ってくれています。